オリジナル小説『高校の教科書』

記事
小説



私は、高校二年生の時の英語の教科書は未だに捨てられない。






私と、私の彼「ミズキくん」とが出会ったのは私が大学に入学した頃の話。右も左も分からない、まさにそんな初々しい大学一年生だった私は新しい生活に胸を躍らせていた。

高校時代は部活を頑張りながら、そこそこ青春も楽しんでいた。しかし、そんな青春の中でも自分の恋愛遍歴に関しては苦い思い出がほとんど。自分の気の強い性格が災いしたのか、それとも一緒にいる時間が多くなってから気づいたものがあったのか。どちらにせよ、私に原因があって離れていった人がほとんどだった。

その時には、「自分から好意を寄せておいて、勝手に失望するな!」とよく周りの友達に嘆いていたものだった。
小さい頃に読んだ本で、「運命の人」という存在を知ってから、私は柄にもなく運命の人がいると信じていた。信じながら、探していた。

「あぁ、私の運命の人はどんな人なのだろうか。」と。
だが、自分の願いがそんな簡単に叶うわけがなく。童話の中のお姫様や少女漫
画の主人公のようにキラキラ輝いて、たまに苦しくなるような、そんな青春は私にはやって来なかった。

願って願って、十何年が経った時。

「ミズキくん」に出会った。

彼は、見た目は見目麗しい、とはお世辞にも言えない。どちらかというと、ちょっと厳つい男の人。そして、私の第一印象は「森のクマさん…」だった。私よりも遥かに大きい彼は、私を見下ろすように見ていたのを今でも覚えている。そんな彼は、私より歳が2つ上の先輩。そして、何となく気分で見に行った弓道部の先輩でもあった。

ミズキくんは、後輩の私にたくさん優しくしてくれた。授業の取り方、大学の仕組み、どの先生の授業が楽なのか、などなど。部活の時にも、足りない道具を貸してくれたりと、「何でこんなにも優しくするんだろう…?」と不信感もあった。

付き合った後に聞いてみると、「好かれたくて必死だった(笑)」と少し恥ずかしそうに言っていた。 

しかし、そんな好意に全く気づかなかった私は、「優しい先輩だなぁ」としか思っていなかったので、本当に当時の彼は気の毒だったと思う。彼が必死にアピールしている最中、私は私で「運命の人」を探していたのだ。






時は戻り、高校二年生の夏。
クーラーのない教室で、パタパタとしたじぎを仰ぎながら私は英語の授業を受けていた。皆さんも覚えがあるのではないのだろうか。「コミュニケーション英語」という科目で、淡々と進めて行く先生の解説を私は聞きながら眠気と暑さに耐えていた。

そんな時に出会ってしまったのが、ある一つの単元の内容。そのタイトルは覚えていないのだが、よくあるラブストーリーだった。

簡単に説明すると、偶然相席になった男女が仲良くなり、その後に色々トラブルに巻き込まれながらも再会して結婚する、といった内容だった。
しかし、その内容はまさに「運命の人」という単語が出てきていた。読み進めて行く度に、その内容に私はのめり込んでいった。いつもはしない予習をして、先を読んで勝手に自分で解釈をしていた。

もちろん、先生の授業内容を聞きながら自分の訳し方が正しいのか、どんな話なのだろうか、と頭の中を駆け巡らせていた。

私がその物語の中でも好きなシーンがある。

それは、男の人と女の人が初めて出会うシーン。

お気に入りのレストランに行った男女は、お互いのことなんてそれまで知らなかった。そんな二人は、一件のレストランに行くことによって変わってしまったのだ。女性が先に座っており、店員にこう話しかけられる。

「今、お店が混んでいるので、相席でも大丈夫ですか?」

その質問に女性は軽く見て、「いいですよ」と言いながら読んでいた本に目を落とした。そこで相席することになったのが、その男性。その時の男性はこう思ったと書いてあった。

「まるで、頭のてっぺんから足のつま先まで電流が流れるような衝撃だった」

そう、表現していたのだった。

それを見た私は、「ロマンチックだなぁ」と思うと同時に、「そんなことある?」と内心バカにしていたのかもしれない。しかし、私は本当にそのシーンが好きで、その内容が終わった後も定期的に読み返していた。

この時にも私は「運命の人」をまだ信じていた。信じたまま付き合った男性達には「思っていたのと違う」と粗悪品を返品するように私に別れを告げてきた。

そして、卒業間近になった高校三年生の春休み。友達との卒業旅行で温泉に行った。そこで何気なく引いたおみくじには、「待ち人来たる」と書いてあったのだ。それを見た私は「これはきっと、運命の人だ!」なんて浮かれていたのだが、この本来の意味を知るのはだいぶ後のことなのは内緒。

さらにその後には、私は友達とディズニーランドに行ってきた。その時に「願いが叶う!?」なんて書かれていた泉に手を合わせて祈っていた。「運命の人が来ますように!出会えますように!」

強く強く願っていた。叶うかどうかも分からない願いを。

そのくらい、運命の人を信じていたんだと今では懐かしくなる。

そんな高校生活が終わった私は、例のミズキくんと出会い、それなりにキャンパスライフを送っていた。

順調そうに見えた私だったが、ある日私自身のスケジュール管理が正確に出来ずに、体調を崩す日が多かった。
しかも、そのミズキくんは十一時終わりのバイト後に、しょっちゅう電話をかけてきていた。正直、私の体は限界だったのだが、先輩からの電話は断れずに眠たい目を擦りながら話をしていた。

もちろん、本人は悪気はない。そこで私は弓道部の部長に相談した。

「夜に電話がかかって来ていて、少し困っています。さり気なくでいいので、注意してもらってもいいでしょうか?」

そう伝えると、部長は快く引き受けてくれた。しかし、その後その部長はミズキくんに対して大分キツい言い方をしたらしい。彼とは気まずくなり、優しくしてくれてたけど、もう無理かなぁと思っていた。

そのトラブルがあった後の部活で、ミズキくんと出会った。私は彼を避けるようにして部室に行こうとしたのだ。だが、彼は何事もないように話しかけて来た。その時の私は思わず彼にこう言ってしまった。

「よく話しかけられますね」

こんな言い方をされたら、普通だったら心が折れるか、腹を立ててしまうだろう。しかし、彼は「うん、そうだね」と言ってもう一度話しかけて来たのだ。

私は何とも言えない気持ちになり、諦めて彼からのアピールを受け取ることにしたのだ。アピールを受け取る、と言ってもそんなあからさまな行為ではなく、親切にしてもらうには問題なかったので、色々と甘やかしてもらった。

そして、ついに彼に告白される時が来たのだ。

出会って二ヶ月弱。いつの間にかラインするのも当たり前になり、部活内では一番仲良しの先輩になっていた。いつも通りに近くの駅まで車で送ってもらった時のこと。談笑しながら、私は降りて駅に向かおうとした。

すると、いきなり彼は「俺と付き合ってよ」と言ったのだ。

突然の告白に驚きながら固まってしまった私。そんな私を見て彼は戸惑っていたが、とりあえず帰らなければと思い、そのまま彼の車を後にした。それからしばらく考えて、彼にこう返事をした。

「もう一度、違う場所で告白してください。それまでに私は決めます。」

こんな生意気な発言を彼は聞き入れて、もう一度告白してくたのだった。
彼の2回目の告白は、綺麗な夜景が見える所だった。そこで、膝をついてもう一度私にこう言った。
「俺と、付き合ってくれませんか?」
その答えに私は「私なんかで良ければ」と伝えると、彼は泣きながら抱きし締めて来た。そこから私と、ミズキくんのお付き合いが始まった。 


そこからは本当に色々あった。喧嘩あしょっちゅうするし、仲直りする時はどちらかが折れるまで。他の人から面倒事を押し付けられて時には、お互いに支えあっていた。

そんな私達はもう付き合って四年ほど経っている。あっという間かと聞かれれば、確かにあっという間だったのかもしれない。

そして、ここで私が思ったのは、「自分の運命の人って、この人なのかな?」と言うことだった。

あれだけ高校生の時に願ったのだ。その後の出会って、付き合ったのはミズキくんだけだった。更に、私が願った場所に私と彼は一緒に旅行したのだ。

これは、意図的ではなく、本当に偶然だった。

それを彼に言うと、恥ずかしそうに「俺も、そう思ってた」と言っていた。そんな彼との思いでは数え切れないほどある。苦しいことも、楽しいことも、悲しいことも、嫌な時も、共に共有して来た私達は確かに互いの「運命の人」であり、最高の親友なのかもしれない。




高校二年生の時の教科書に載っていた話。


「まるで、頭のてっぺんから足のつま先まで電流が流れるような衝撃だった」


こんな経験をするなんて、あの時は思ってもいなかったし、想像も出来なかった。きっと、私にとってのこの衝撃は、ミズキくんとの出会いだったのだろうと今では思わずにいられない。



まぁ、こんな話を彼にするのは当分先になるのだろう。








<終わり>



サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す