「一旦それでやってみます」が、いつの間にか“決めたこと”になるまで

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人生の進路設計アドバイザー井上です。納得できない選択で人生を進めたくない人のために、判断の軸を言葉にしています。

このnoteでは、相談現場でよく伺う状況や、これまでに聞いてきた話をもとにした架空のケースを扱いながら、その場では見えにくい判断のズレを、静かに整理していきます。

今回は、育休明けの復職前面談でよく起こる、「仮のつもりで進めた働き方が、いつの間にか確定扱いになっていく」そんな場面を取り上げます。その場では問題に見えなかったやり取りが、時間が経ってから、判断のズレとして効いてくるケースです。


復職前の面談で交わされた、何気ないやり取り


育休明けの働き方を調整する、復職前のオンライン面談。画面には、上司と人事担当者が並んでいます。

人事担当者が資料を共有しながら、こう説明しました。

・復職後の勤務時間は9時から18時・業務内容は復帰前と同じ案件を継続・時短勤務については、必要があれば改めて相談

その流れで、上司が続けます。

「まずは、この形でやってみましょうか。」

少し間を置いて、本人はこう答えました。

「分かりました。一旦それでやってみます。」


本人の中では「仮」のつもりだった


この言葉を口にしたとき、本人の中にあった認識は、こういうものでした。

・今日ここで、最終的に決め切ったわけではない・しんどくなったら、また調整できる・今回は“仮の形”でスタートするだけ

つまり、「決めた」という感覚はなかった。

面談後に整理された内容は、次のようなものでした。

・勤務時間はフルタイム・業務内容は復帰前と同じ担当範囲・定時後の会議も原則参加・調整が必要な場合は、本人から申し出る

議事録には、たった一行、「復職後は、当面この形で進める。」という記載だけが残りました。


時間が経ってから、効いてくる違和感


復職して3か月ほど経った頃。夕方になると、保育園のお迎え時間を気にしながら仕事をする日々が続きます。

18時前後に届くSlackの通知。「急ぎですみません」という依頼。

そのたびに、どう返すか少し迷う時間が生まれる。

違和感が積み重なり、働き方の見直しを相談しようと、ある日の1on1で切り出しました。

「最近、業務量が思ったより多いと感じています。働き方、少し見直せないかなと思っていて。」

返ってきた言葉は、こうでした。

「でも最初に、この形でやるって決めたよね。」


決めた記憶がない、というズレ


本人は言葉に詰まります。

「仮のつもりだった。」「また相談できると思っていた。」「決め切った記憶はない。」

でも、相手にとっては、すでに「決めた前提」で話が進んでいる。

ここで起きていたのは、誰かが悪かった、という話ではありません。


「これまでと同じ」という言葉が持つ力


面談の中で使われた「復帰前と同じ」「これまで通り」「まずはこの形で」

こうした言葉は、提案する側にも、受け取る側にも安心を与えます。

イメージしやすい。説明しやすい。相手も納得していそうに見える。

その一方で、
誰の判断なのか
本当に判断されたのか
という点を、曖昧にしたまま進めてしまう力も持っています。

本人にとっては「仮」だった形が、「これまで通り」という言葉の強さによって、いつの間にか「この人はこう判断した」という履歴として扱われていく。

問題は、前例そのものではありません。

今進んでいる形が、自分の中でどういう位置づけなのか。周囲からは、どういう判断として見られているのか。

そのズレが、静かに生まれていくことです。


判断が曖昧なまま進むと、何が起きるか


「確認しなきゃいけない」という話ではありません。現実には、致し方なく、こうしたズレは起こります。

ただ、安心をくれる言葉の裏で、判断の位置づけが言葉にならないまま進んでいると、あとから「決めた覚えがないのに、決めたことになっている」という感覚が残ります。

このケースは、その一例として、ここに残しておきます。
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