契約書には、取引条件や業務の進め方が明確に記載されている。
ところが、実際の現場では契約書とは異なる運用が行われていることがあります。
例えば、
・契約書では「納品後7日以内に検収」とされているが、実際の確認には1か月以上かかる
・修正回数は2回までのはずが、実際には何度も無償修正に応じている
・支払期日は決まっているが、発注者が取引先から入金を受けた後に支払う運用になっている
・追加作業をチャットで依頼しているが、追加報酬については決めていない
といったケースです。
「契約書と実際の取引が違う」という状態を放置すると、トラブルが起きたときに双方の認識が衝突します。
「契約書にはこう書いてある」
「しかし、この業界では以前からこの方法で取引している」
「今まで何も言わずに対応してくれていた」
それぞれに言い分があるため、簡単には解決できません。
「商慣習だから契約書より優先される」とは限らない
商法第1条第2項は、商事について商法に定めがない事項は商慣習に従い、商慣習がないときは民法に従うと定めています。また、民法第92条も、一定の場合には慣習に従うことを認めています。
もっとも、単に「業界では普通です」「当社ではいつもこうしています」と主張すれば、契約書の内容が当然に変更されるわけではありません。
一社だけの社内ルールや、一部の取引先との運用が、法的な意味での商慣習に当たるとは限りません。
一方で、契約締結後、双方が長期間にわたって契約書とは異なる方法で取引を続けていた場合には、その運用が契約内容の解釈や、別途合意の有無を判断する材料になることがあります。
つまり、「契約書だけを見ればよい」とも、「実際の運用だけを見ればよい」とも言い切れません。
「ずれ」が起こりやすい契約条項
特に注意したいのは、次のような条項です。
・業務範囲と追加作業
・納品、検収、修正対応
・報酬の計算方法と支払時期
・キャンセル料と途中解約
・成果物の著作権や利用範囲
・発注方法や連絡方法
・契約書、個別発注書、仕様書、チャットの優先順位
これらは法律だけでは決められず、実際の取引方法や業界特有の流れを踏まえて定める必要があります。
「現場で使える契約書」にするために
契約書を作成するときは、法律上正しい条項を並べるだけでは不十分です。
実際の発注方法、納品後の確認手順、修正の回数、追加料金が発生する場面、連絡に使用するツールなど、現場の流れを確認したうえで条項に落とし込む必要があります。
また、契約締結後に運用が変わった場合には、契約書も見直すべきです。
大切なのは、「契約書を現場に合わせること」と「現場の運用を契約書に合わせること」の両方です。
契約書と実際の商慣習が大きくずれていれば、契約書は棚に保管されているだけの書類になってしまいます。
トラブルが起きてから契約書を開くのではなく、普段の取引を正確に映す契約書を準備しておくことが重要です。
南本町行政書士事務所では、法律関係だけでなく、実際の取引方法や商慣習、発注から納品・支払いまでの流れを確認したうえで、現場で機能する契約書の作成を行っています。
南本町行政書士事務所 代表 特定行政書士 西本