「契約書はネットのひな形を使えば十分。」
そう考えていたものの、実際に自分で契約内容を考え始めると、多くの方がある壁にぶつかります。
「この内容で本当に大丈夫なのだろうか。」
この不安はごく自然なものです。
実際、契約書を作成する作業は「文章を書くこと」ではありません。
頭の中にある取引のルールを、法的な文章へ翻訳する作業だからです。
契約書に正解は一つではない
例えば、業務委託契約書一つを取っても、
・成果物の権利は誰のものか
・途中で解約できるのか
・修正回数は何回までか
・秘密保持はどこまで及ぶのか
・損害賠償の範囲はどうするのか
これらに「法律で決まった唯一の答え」はありません。
当事者が合意すれば、法律に反しない限り、自由に決められる部分が非常に多いのです。
だからこそ、自分で考えた内容を契約書に反映させること自体は決して間違いではありません。
問題は「考えた内容」が正しく伝わるか
契約書で難しいのはアイデアではありません。
難しいのは、そのアイデアを第三者が読んでも同じ意味に理解できる文章へ変えることです。
例えば、
「迷惑をかけた場合は損害賠償する」
という一文。
一見分かりやすそうですが、
・迷惑とは何を指すのか
・どこまで賠償するのか
・故意だけなのか、過失も含むのか
・間接損害はどうするのか
など、多くの解釈が生まれます。
契約書では、この「解釈の余地」が将来の紛争の原因になります。
当事者同士は分かっている、が危険
契約締結時には、お互いが十分理解しているつもりでも、
数年後には担当者が変わっていることもあります。
会社が成長し、社員が増えれば、
「そんな話は聞いていない。」
という事態は珍しくありません。
契約書は未来の自分たちへ向けた説明書でもあります。
そのため、「今のお互いなら分かる」は、契約書では危険な考え方なのです。
AIやひな形では埋まらない部分
最近ではAIで契約書を作成することも珍しくありません。
もちろん、文章としては非常によくできています。
しかしAIは、あなたが頭の中で考えている細かな取引条件までは知りません。
また、インターネット上のひな形も「平均点」の契約書です。
実際の取引では、
「ここだけは絶対に譲れない。」
というポイントが存在します。
そこをどう表現するかが、契約書作成の価値になります。
気になるという感覚は、とても大切
契約書を読み返して、
「何か引っかかる。」
「本当にこれで伝わるのかな。」
そう感じたのであれば、その感覚は大切にしてください。
多くの場合、その違和感には理由があります。
法律的な問題かもしれませんし、文章表現の問題かもしれません。
あるいは、取引の流れそのものに見落としがあるのかもしれません。
最後に
契約書作成において一番重要なのは、「自分で考えること」をやめないことです。
専門家に依頼する場合でも、自分がどのような取引をしたいのか、どこにリスクを感じているのかを整理しておくことで、契約書の完成度は大きく変わります。
そして、その考えを法的に整理し、漏れなく、誤解なく、将来の紛争にも耐えられる文章へ落とし込むことが、専門家の役割です。
「自分で考えた内容を契約書にした。でも、これで本当にいいのだろうか。」
その不安は決して恥ずかしいものではありません。
むしろ、その一歩が、実務で使える契約書への入口なのです。
南本町行政書士事務所 特定行政書士 西本