契約書に押印する意味とは?「二段の推定理論」を行政書士が解説

契約書に押印する意味とは?「二段の推定理論」を行政書士が解説

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法律・税務・士業全般
こんにちは。ファビスト行政書士事務所です。

契約書を作成する際、契約当事者が署名をしたり、会社の代表者印などを押印したりすることが一般的です。

しかし、

「そもそも契約書には必ず印鑑を押さなければならないのか?」

「押印には法的にどのような意味があるのか?」

と疑問に思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

実は、契約書への押印を考えるうえで重要となるのが、民事訴訟における「二段の推定」という考え方です。

今回は、契約書に押印する意味について、「二段の推定」を中心に解説します。

1 そもそも契約書に押印しないと契約は成立しない?

まず押さえておきたいのは、原則として、契約書に押印しなければ契約が成立しないわけではないということです。

契約は、原則として当事者双方の意思表示が合致することによって成立します。

例えば、「この商品を10万円で売ります」という申込みに対して、相手方が「10万円で買います」と承諾すれば、原則として契約は成立します。

そのため、法律上特別な方式が要求される契約を除けば、契約書の作成や押印は契約成立の必須条件ではありません。

それでは、なぜわざわざ契約書を作成し、そこに押印するのでしょうか。

重要な理由の一つが、後日紛争になった場合に「この契約書が本当に本人の意思に基づいて作成されたものである」ということを証明しやすくするためです。

2 契約書が裁判で証拠になるために重要な「真正な成立」

契約をめぐって裁判になった場合、契約書は重要な証拠となります。

しかし、相手方から、

「私はこんな契約書を作成していない」

「この契約書に書かれている内容には合意していない」

などと争われる可能性があります。

そこで問題となるのが、その契約書が本当に本人の意思に基づいて作成されたものなのか、という点です。

これを法律上、「文書の真正な成立」といいます。

民事訴訟法第228条第1項では、

「文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。」

と定められています。

つまり、契約書を裁判上の証拠として利用する場合には、その契約書が作成者の意思に基づいて真正に作成されたものであることが重要となります。

そして、ここで押印が大きな意味を持つことになります。

3 民事訴訟法第228条第4項による推定


民事訴訟法第228条第4項には、次のような規定があります。

「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」

契約書は通常、私人が作成する「私文書」に該当します。

そのため、本人の署名又は押印がある契約書については、一定の要件のもと、その契約書が本人の意思に基づいて作成されたものと推定されることになります。

ただし、押印についてこの規定による推定を受けるためには、その前提として、

「その印影が本人の印章によって押されたものである」

ということが問題となります。

ここで登場するのが「二段の推定」です。

4 「二段の推定」とは?

二段の推定とは、押印された私文書について、その真正な成立を判断する際に用いられる考え方です。

大きく分けると、次の二段階で推定が働きます。

【第一段の推定】本人の印章による印影であれば、本人の意思による押印と推定される

契約書に押された印影が本人の印章によって顕出されたものであることが認められる場合、反証がない限り、その印章は本人の意思に基づいて押印されたものと事実上推定されます。

これは、最高裁判所昭和39年5月12日判決によって示された考え方です。

例えば、契約書に押された印影と本人の印鑑証明書に登録された実印の印影が一致している場合などには、本人の印章による押印であることを立証する有力な材料となります。

そして、本人の印章が押されているのであれば、通常は本人の意思に基づいて押されたものだろう、という経験則に基づく事実上の推定が働くことになります。

これが「第一段の推定」です。

【第二段の推定】本人の意思による押印であれば、文書全体が真正に成立したものと推定される

第一段の推定によって本人の意思に基づく押印であることが認められると、次に民事訴訟法第228条第4項が働きます。

同項により、本人の押印がある私文書は真正に成立したものと推定されます。

これが「第二段の推定」です。

つまり、

① 本人の印章による印影である
 ↓
② 本人の意思に基づいて押印されたものと推定される
 ↓
③ 本人の押印があるため、契約書が真正に成立したものと推定される

という二段階の推定を経ることになります。

これが、一般に「二段の推定」と呼ばれる理論です。

5 なぜ契約書に実印を押すことがあるのか


ここまで理解すると、不動産取引や金銭消費貸借、事業譲渡などの重要な契約において、「実印+印鑑証明書」が求められることがある理由も分かりやすくなります。

印鑑証明書を確認することによって、

「契約書に押された印影が、本人の登録した印章によるものである」

ということを証明しやすくなるからです。

これは先ほど説明した第一段の推定の前提となる「本人の印章による押印」であることを立証するうえで重要な意味を持ちます。

もちろん、「実印を押して印鑑証明書を添付すれば絶対に契約書の真正が争われない」というわけではありません。

印章が第三者に無断で使用された場合など、具体的事情によって推定が覆される可能性はあります。

それでも、重要な契約において実印と印鑑証明書が利用されることには、証拠上大きな意味があります。

6 認印では意味がないのか?


それでは、実印ではなく認印を押した契約書には意味がないのでしょうか。

そのようなことはありません。

認印による押印であっても、それが本人の意思に基づく押印であることが認められれば、民事訴訟法第228条第4項による推定が働き得ます。

もっとも、実印の場合には印鑑証明書によって本人の印章であることを証明しやすいのに対し、認印の場合には本人の印章であることの立証が問題となることがあります。

そのため、契約金額が大きい場合や、事業譲渡、株式譲渡、不動産取引、金銭消費貸借など、将来的な紛争リスクが大きい重要な契約については、実印による押印と印鑑証明書の提出を求めることを検討する価値があります。

7 押印があれば絶対に安心というわけではない

ここで注意したいのは、「押印さえあれば絶対に契約書が有効になる」ということではないという点です。

二段の推定は、あくまで文書が本人の意思に基づいて作成されたかという「真正な成立」に関する問題です。

例えば、

・契約内容が公序良俗に反する
・強行法規に違反している
・錯誤、詐欺、強迫などが問題となる
・契約書の内容について別の解釈上の争いがある

といった場合には、押印とは別の問題として契約の効力等が争われる可能性があります。

したがって、

「押印がある=契約内容がすべて有効」

というわけではありません。

押印の有無と契約内容の適法性・有効性は分けて考える必要があります。

8 まとめ

契約書への押印は、単なる慣習として行われているものではありません。

契約をめぐって紛争となった場合に、その契約書が本人の意思に基づいて作成されたものであることを証明するうえで重要な意味を持っています。

特に押印については、

第一段の推定
本人の印章による印影である
→ 本人の意思に基づいて押印されたものと事実上推定される

第二段の推定
本人の意思に基づく押印である
→ 民事訴訟法第228条第4項により、文書が真正に成立したものと推定される

という「二段の推定」が重要になります。

もっとも、契約書で最も重要なのは押印だけではありません。

取引条件や契約当事者の権利義務を明確にし、将来トラブルが発生した場合にどのように処理するのかまで適切に定めておくことが重要です。

特に、インターネット上のひな型をそのまま使用した契約書では、実際の取引内容と契約条項が一致していないケースもあります。
契約書を作成する際には、「印鑑を押しているから大丈夫」と考えるのではなく、契約内容そのものについても十分に確認しておきましょう。
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