『正しさの檻』第十二章:選ばれない者の焦燥
季節はゆっくりと変わりつつあった。風の温度がわずかに軽く、乾いている。そんな中で、彼の周囲だけが急速に、そして静かに変わっていた。AYUMIが、内定を辞退した。その知らせが届いた日、MARIは胸の奥に針のような痛みを感じた。彼の表情は変わらなかった。まるで最初から、そうなることが決まっていたかのように。そして間もなく、彼の専属書記だったNATSUの異動も決まった。人が去っていく。彼のもとを離れていく。けれど彼は、何も言わない。ただ静かに、淡々と、日々の業務を続けるだけだった。MARIには、そんな彼が理解できなかった。理解できないというよりも——悔しかった。食事の誘いを切り出したのは、そんな日々が何週間も続いたあとだった。「主任、たまには彼を食事に誘ってみませんか?」理由はひとつ。「MARIの長期インターンお疲れ様会」という名目を作ることで、彼の警戒を解きたかったのだ。彼は滅多に誘いに乗らない。何かの「理由」がなければ、きっと今回も断られてしまう。それでも、どうしても——どうしても、知りたかったのだ。あの痩せた頬の理由を。淡々と進み続ける心の奥を。居酒屋のテーブルに、グラスが並ぶ。主任が軽く乾杯の音頭をとった。「お疲れ様、MARI」彼は、例によって酒も食事も手をつけなかった。一口も。それが逆に異様だった。いつもよりさらに痩せている気がした。肩に落ちたスーツが、わずかにだぶついている。「また、新しいコンテンツを考えているんですか?」MARIが切り出すと、彼はゆっくりと頷いた。「天才がね、またぶっ飛んだ企画を考えてる。」「天才……SHIHOさんですか?」「そう。俺のプロモーション動画
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