「災害が起きても、落ち着いたら営業を再開すればいい」
そう考えている経営者の方も、少なくないかもしれません。
しかし、現実には、災害によって営業を再開できなくなった企業や店舗が存在します。
長年地域に愛されてきたお店も、従業員を抱える企業も、突然の地震や津波によって事業の継続を断念せざるを得ないことがあります。
今回は、実際に起きた事例を紹介しながら、企業が災害に備える意味について考えたいと思います。
■ 事例① 東日本大震災:被害の大きかった地域では1,660社が休廃業
2011年3月11日に発生した東日本大震災。
津波による建物や設備の被害に加え、取引先の喪失、顧客の減少、物流の混乱など、企業経営にも深刻な影響を与えました。
帝国データバンクが2019年に公表した調査によると、岩手・宮城・福島の沿岸部など、特に被害が大きかった地域に本社を置いていた5,004社のうち、震災から約8年後までに1,660社が休廃業していました。
約3社に1社です。
もちろん、すべての企業が震災だけを原因として休廃業したわけではありません。
しかし、災害による影響は、建物が壊れた瞬間だけで終わるものではないことが分かります。
工場を修理しても、取引先が戻らない。
店舗を再開しても、お客様が戻ってこない。
設備を復旧しても、従業員が確保できない。
事業を再開することと、経営を元の状態に戻すことは、まったく別の問題なのです。
■ 事例② 福島県の温泉旅館:建物だけでなく、客足も失われた
東日本大震災では、津波や地震の直接的な被害を受けなかった企業にも影響が広がりました。
福島県の土湯温泉では、原発事故に伴う風評被害や観光客の減少などによって、複数の旅館・ホテルが事業を停止し、自己破産や廃業に至ったことが報じられています。
2011年9月には、「いますや旅館」「土湯温泉ホテル」が自己破産を申し立てたと報道されました。
ここで注目したいのは、自社の建物や設備を守るだけでは、事業を守りきれない場合があるという点です。
売上が突然減少した場合、どの程度の期間なら事業を維持できるのか。
資金繰りはどうするのか。
別の顧客層や販路を確保できるのか。
こうした経営面の備えも、事業継続を考えるうえで重要になります。
■ 事例③ 熊本地震:店舗の損傷で営業継続を断念
2016年の熊本地震では、熊本県八代市にあった「鶴屋百貨店 八代生活彩館」が、建物の損傷による倒壊の危険性から閉店することになりました。
1990年から営業してきた店舗でしたが、地震による建物被害が営業継続を困難にしたのです。
一方で、同社は一部商品の販売を別店舗で行う方針を示していました。
この事例から考えたいのは、「いつもの店舗が使えなくなったら、次にどうするか」ということです。
店舗を移すのか。
別拠点で一部の業務を続けるのか。
取引先に代替対応を依頼するのか。
その選択肢を災害発生後にゼロから考えるのでは、時間がかかってしまいます。
■ 事例④ 2026年熊本地震:創業約80年の老舗靴店も閉店へ
2026年8月に発生した熊本地震でも、地域に根付いた店舗が被害を受けました。
熊本県宇城市小川町で約80年にわたり営業してきた老舗靴店「山口カサヤ」は、店舗の被災を受け、同年9月6日で閉店することが報じられました。
長年の歴史や常連のお客様があっても、災害による大きな被害が事業継続を難しくすることがあります。
また、熊本県八代市のスーパー「カガミユーウマート」も、建物に大きな被害を受け、閉店を決断したと報じられています。
災害による事業の喪失は、過去の出来事ではありません。
今も起こり得る経営リスクなのです。
■ では、BCPがあれば廃業を防げるのか?
ここは誤解してほしくない点です。
BCP(事業継続計画)を作成したからといって、建物の倒壊や設備の損壊、顧客の減少を必ず防げるわけではありません。
大規模災害では、事前の備えだけでは対応できない状況も発生します。
それでもBCPには、重要な役割があります。
それは、非常事態になったとき、会社として何を優先し、誰が判断し、どのように事業を継続・復旧させるかを、事前に決めておくことです。
例えば、次のようなことです。
- 従業員の安否を誰が確認するのか
- 店舗や工場が使用できない場合、どこで業務を行うのか
- 最優先で継続する業務は何か
- 主要取引先へ誰が連絡するのか
- 売上が途絶えた場合、資金をどう確保するのか
- どの条件が整えば営業を再開できるのか
- 復旧が長期化した場合、どのような代替策を取るのか
こうした内容を整理しておけば、混乱の中でも判断するための土台を持つことができます。
■ 特に中小企業こそ、事前の準備が必要
大企業であれば、複数の拠点や専門部署、代替設備を持っている場合があります。
一方、中小企業では、一つの店舗、一つの工場、少人数の従業員に経営資源が集中していることも珍しくありません。
経営者自身が被災すれば、重要な判断が止まる可能性もあります。
だからこそ、分厚いマニュアルを作ることよりも、まずは自社にとって本当に必要な対策を明確にすることが大切です。
「会社が止まったとき、どうすれば再び動かせるのか」
この問いに答えられる状態を目指すことが、BCP作成の第一歩です。
■ 最後に:事業を守る準備を、平常時から
今回ご紹介した企業や店舗も、災害が発生する前には、日々の営業を続けていました。
しかし、災害は会社の都合に合わせて起こるわけではありません。
明日、突然店舗が使えなくなったら。
工場が1週間停止したら。
主要な取引先との連絡が取れなくなったら。
そのとき、自社はどのように対応するでしょうか。
私自身、事業運営に携わってきた経験から、BCPは単に書類を作ることではなく、日常の業務や経営資源を見直す機会でもあると考えています。
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災害が起きてからではなく、平常時だからこそできる備えがあります。
大切な事業と、そこで働く人たちを守るために。
まずは、自社の事業継続について考えてみませんか。