「このファイル、○○さんしか触れないんですよ」
どの職場にも、たいてい一つはあります。
マクロが仕込まれた集計表。
シートが20枚あるシフト管理表。
月末になると、誰かが手作業で数字を差し替えているレポート。
作った本人が異動した瞬間、そのファイルは「怖くて触れないもの」に変わります。
通信業界のコールセンターで25年、現場のマネジメントをしてきました。
その間、いくつもの「触れないExcel」を見てきましたし、正直に言えば、自分でも作ってしまった側です。
そこで分かったのは、属人化は担当者の能力の問題でも、引き継ぎの怠慢でもない、ということでした。
作り方の問題です。
触れないExcelが生まれる、3つの理由
**1つ目は、それが「善意」で作られていること。**
属人化したファイルのほとんどは、業務命令ではなく、現場の誰かの善意から生まれています。「毎月この集計に2時間かかっているから、自動化しよう」。動機はいつも正しい。
だからこそ、仕様書もレビューもないまま、その人の頭の中だけを設計図にして完成してしまいます。「なぜこの形にしたのか」が、どこにも残らない。
**2つ目は、Excelが「つながって」しまうこと。**
入力シートがあり、それを参照する集計シートがあり、さらにそれを引っ張るレポートがある。ファイルをまたいだ参照が入ることもあります。
この連鎖ができあがると、1か所直しただけで別の場所が壊れます。触った人が「壊した人」になってしまう。だから誰も触らなくなる。使われ続けているのに、更新だけが止まった状態がここで生まれます。
**3つ目は、引き継ぎが「ファイルの受け渡し」で終わること。**
引き継ぎで渡されるのは、たいていファイルそのものと、口頭の操作説明だけです。
でも本当に必要なのは「どう操作するか」ではありません。「なぜこの手順なのか」「どこを直してよくて、どこを触ってはいけないのか」です。この部分は前任者の記憶の中にしかなく、渡らないまま消えていきます。
ここからは、私が実際に社内でツールを作るときに気をつけている3点です。
既存のExcelは作り直さない
一番やりがちな失敗は、Excelのつながり全体を作り直そうとすることです。工数も大きく、失敗したときの被害も大きい。
私は逆のやり方を取ります。既存のシート同士のつながりには手を加えず、「入力元」と「出力先(レポート)」の境界に、連携用のシートを1枚だけ挟みます。
こうすると既存の数式はそのまま動き続けます。現場の仕組みを止めずに、直したい部分だけを入れ替えられる。引き継ぐときも「見るのはこの1枚です」と言い切れます。
決め事は1か所にまとめる
単価、税率、締め日、部署名。
こうした「変わりうる値」を数式の中に直接書き込むと、変更のたびに全シートを探し回ることになります。
設定用の場所を1か所つくり、そこだけを見れば直せる形にしておく。
地味ですが、これだけで「触れる人」が一人から全員に変わります。
手順書はスクリーンショットで1枚
社内に資格対策のアプリを配布したときは、必ず操作マニュアルを添えました。
文章だけの手順書は読まれません。画面の写真に矢印と番号を入れた1枚のほうが、はるかに使われます。
作った時点では完成ではなく、次の担当者が再現できて完成だと考えています。
同じことで困っている方へ
属人化は、優秀な人が抱え込んだ結果ではありません。仕様が残らない作り方をしたときに、自然にそうなるだけです。
逆に言えば、入口と出口を決め、決め事を1か所に集め、手順を残す。この3つを最初から意識しておけば、担当者が替わっても壊れにくいものが作れます。
もし、いま社内に「あの人しか触れないExcel」があって、手をつけられずにいるようでしたら、お手伝いできることがあるかもしれません。
既存のExcelを作り直すのではなく、入口と出口の境界に連携用のシートを挟む形で設計します。ヒアリングでいただくのも、入口と出口のサンプル(ダミーで構いません)だけです。
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