社内で業務ツールを作ったことがある方なら、一度は経験があると思います。
苦労して作って、説明会も開いて、最初の週はみんな使ってくれる。ところが1か月経つと、誰も開かなくなっている。
私はこれを何度もやりました。通信業界のコールセンターで25年、現場のマネジメントをしてきて、自分で作ったツールが静かに使われなくなっていく様子を、何度も見ています。
一方で、ごく少数ですが、放っておいても使われ続けるものもあります。先日は、自分の部署で使っていたツールについて「うちでも使いたい」と別の部署から声がかかりました。
同じ人間が作っているのに、この差はどこから来るのか。今日はその話を書きます。
使われなくなるツールの、3つの共通点
振り返ってみると、消えていったツールにはきれいに共通点がありました。
1つ目は、入力の手間が現場の得より大きいこと。
「入力してくれれば、こんなに便利な分析ができます」。作り手はそう言います。でも入力するのは現場で、分析結果を喜ぶのは管理側です。得をする人と手を動かす人が違うツールは、続きません。
2つ目は、使うのに決心がいること。
ファイルを探して、開いて、前回の続きを思い出して、入力する。一つひとつは小さくても、この手数が「あとでやろう」を生みます。人は面倒だから使わないのではなく、思い出すのが面倒だから使わないのだと思います。
3つ目は、出てくる数字が「知っている数字」であること。
集計して表示された結果を見て、現場が「まあ、そうだよね」と思ったら、そのツールの寿命は終わりです。知っていることを確認するために、わざわざ手間はかけません。
最初に減らしたのは、機能ではなく手数
そこで、次に作るときは順番を変えました。
何を表示するかより先に、開いてから答えが出るまでに何回クリックするかを決めたんです。ここを先に固定してしまうと、後から「この機能も」と足したくなったときに、自動的にブレーキがかかります。
具体的には、ファイルを開いた最初の画面に、その日いちばん見たい数字を置きました。設定も、ログインも、読み込みもなし。開いた瞬間に見える。
機能の数は、前に作ったものより明らかに少ないです。それでも使われているのは、多機能だからではなく、開くのに決心がいらないからだと感じています。
隣の部署から声がかかった
そうして半年ほど自分の部署で使っていたら、別の部署から「同じものを使いたい」と言われました。
正直、意外でした。部署が違えば扱う数字も指標も違うので、そのままでは使えないはずです。
聞いてみると、欲しかったのは機能ではありませんでした。「毎週の会議の前に、全員が同じ画面を見ている状態」のほうだったんです。
数字を出すこと自体は、どんな集計表でもできます。でも、全員が同じものを見て、同じ言葉で話す状態は、簡単には作れません。ツールが解いていたのは計算の問題ではなく、そこだったわけです。
このとき初めて、自分が作ったものの価値が分かりました。作った本人が一番分かっていないというのも、おかしな話ですが。
技術より、現場の言葉
こうして振り返ると、使われるかどうかを決めていたのは技術ではありませんでした。
画面に出す言葉が現場で使われている言い方と同じか。押す場所が、迷わない位置にあるか。入力した人に、何か返っているか。
判断しているのは、25年ぶんの「現場はこうすると使わない」という感覚のほうです。プログラミングの知識は、それを形にする手段でしかありませんでした。
逆に言えば、現場を知っている人ほど、本当は良いツールが作れるということでもあります。作る手段さえあれば。
同じことで困っている方へ
社内にツールを入れたけれど定着しなかった、という経験をお持ちでしたら、原因はたぶん機能不足ではありません。手数と、出てくる数字の中身です。
私は業務ツールを作るとき、機能の一覧よりも先に「誰が、いつ、何回クリックするか」から設計します。現場で25年、使われなかった側をたくさん見てきたからです。
Excelでの集計に限界を感じている、入力してもらえない、作ったけれど続かない。そんな状態でしたら、お力になれることがあるかもしれません。
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