【短編小説サンプル】死亡予定日訂正申請|ブラックコメディ

【短編小説サンプル】死亡予定日訂正申請|ブラックコメディ

記事
小説
短編小説制作サービスの掲載サンプルです。オリジナルキャラクターによる全年齢作品で、日常的な制度と不条理を組み合わせたブラックコメディです。

制作補助として生成AIを使用し、構成判断、文章の選別、加筆修正、整合性確認、最終調整は作者本人が行っています。

死亡予定日訂正窓口は、市役所の地下二階にあった。

案内板には「住民票」「納税」「死亡」と同じ書体で並んでいる。矢印に従って階段を下りると、蛍光灯が一本切れていた。どこからか入り込んだ大きな蛾が、ジジッと異音を立てる光に纏わりついている。

番号札を取る。四四四番。

「四四四番の方」

窓口の死神は眼鏡をかけた若い女だった。三島が学生時代に好きだった漫画の登場人物に少し似ている気がする。その人物がつけていたのに似た黒いローブの胸元に、研修中と青文字が書かれた札を付けている。

会社員の三島は椅子へ座り、封筒を差し出した。くたびれたスーツの袖から、糸が出ている。よりにもよって今気づいてしまったことが、少し気恥ずかしくなった。

「死亡予定日を、一か月ずらしたくて」

よくある依頼なのだろう。研修中の死神も、さほど驚かなかった。

「えっと……前倒しですか、それとも延期ですか」

「延期です」

「わかりました。理由をお願いします」

「繁忙期のため」

三島が用意してきた延期理由を告げると、死神は申請書へ丸を付けた。理由欄には、業務都合、家庭都合、宗教上の都合、その他がある。考えるまでもなかったのだろう。彼女は迷わず業務都合を選んだ。
しかし彼女が使用しているボールペンからインクがうまく出ず、結局三回丸を描いていた。

「では、勤務先からの証明書のご提出をお願いします」

「あっ、死亡にもやっぱり要るんですか」

「延期には必要ですねぇ。こちら都合ですが、無断で生き続けられると、人口統計がずれてしまいまして」

後ろから通りすがりの先輩死神と思しき別の女性が、「こちら都合とか言わないの」と女の肩を小突く。
こういうのは死神の世界にもあるのだな、と妙な公平感を覚えそうになる。それを振り払って、三島は鞄から念のため持ってきた残業予定表を出した。こちらでしょうか、と確認も取る。部長の印鑑も押してあるが、端の方が少し折れているので、それを伸ばしてからカウンターに置いた。
人事部は彼の死亡予定を知っている。その上で無味乾燥に月末の会議資料を頼んできた。

「ああ、こちら。死後二週間まで予定が入ってるんですね」

担当死神は、三島の汚い字で埋まった書類をあれこれ角度を変えながら読み取っていく。

「え、ええ……引き継ぎが終わらなくて」

「死亡後の勤務はこちらでは管轄外でして……。お早めに、労働基準監督署へご相談いただければ、と」

「それって死んでからでも動いてくれるものなんです?」

「あ~、それは予約制になっちゃうんですよ」

少し打ち解けたような口調になった死神は、書類を重ねて、端を揃えた。

「では、延期希望日は来月末でよろしいですか」

「あとからすみません。……できれば決算のあとになりませんか」

「日付とか、わかります?」

「再来月の十五日ですが……延びるかもしれません」

「では死亡日も連動させますか」

「そんな制度が」

ちょっとちょっと、と先ほど担当死神の肩を叩いた先輩が、また同じ呼び方をした。
そのまま彼女に何かを告げる。いい加減なことを言わない、と注意された様子で、担当死神は気まずそうにぺこりとうなずく。

「あ、すみません。中断して。えっと……法人向けなら、あるんです」

彼女から「こちらです」と渡されたパンフレットには、ゴシック体で「明るい労働!明るい死亡!」と書かれていた。事業継続型死亡猶予制度。その主だった条件に目を通す。従業員五名以上の同意、代表者印、直近三期分の決算書が必要らしい。

「う~ん、これは個人では使えなさそうですね」

「会社が申請すれば」

「会社は、たぶん私が死んでも関係なさそうです」

死神はそこで初めて手を止めた。

「それはお気の毒に」

結局、死亡予定日は二週間だけ延期された。繁忙期の終了ではなく、法定上限が理由だった。
死神はついでのように労働基準監督署のフリーダイヤルをくれた。自分で番号を調べる手間が省けたなと三島は思った。市役所マスコットキャラクターの絵が入ったメモを眺め、ポケットにしまった。まあ、かけるかどうかは別の話だが、多分忘れる方が先だろう。

窓口を出ると、携帯電話に部長からメッセージが届いていた。

『例の件、来月までにお願い。無理なら早めに言ってください』

どこまでも素っ気ない文面に、三島は「承知しました」と返した。彼への返信は大抵の場合その六文字で完結するし、いつの間にか予測変換「し」枠の大本命になっていた。

地下から地上へ戻る階段を上がる。すでに足取りは重い。
しかも突然、蛍光灯がもう一本消えた。

――――――――――

設定、関係性、台詞サンプルをもとに、会話中心の短編小説を制作しています。基本内容は4,000~5,000字、2,000円、修正1回。TXT、Word、横書きPDF、縦書きPDFに対応します。ご依頼の詳細は関連サービスをご覧ください。

サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す