短編小説制作サービスの掲載サンプルです。オリジナルキャラクターによる全年齢作品で、会話劇と少しブラックなコメディを中心にしています。
制作補助として生成AIを使用し、構成判断、文章の選別、加筆修正、整合性確認、最終調整は作者本人が行っています。
「こちら、……どなたが書いたのでしょう」
人事部長のリディアは、机の上の羊皮紙を指一本で押さえた。紙に罪はなかった。その一方で書かれている内容はだいぶ有罪よりだとリディアは思う。できれば越権して裁いてしまいたいところだ。
向かいに立つ魔王の側近ヴァルドは、すっと胸を張る。ドヤ顔。悪い男ではないのだが、とリディアは思う。
鍛え上げたご自慢の大胸筋に手を添える彼の所作だけは、いつも本当に美しい。
「私だ。人間界侵攻に備え、兵站部の人員を増やす」
「そうですか。読みます。勤務時間、日の出から勝利まで」
「勝てば終わる」
「勝てなかった場合は」
「翌日に持ち越す」
リディアは羽根ペンを置いた。いっそ折ってしまいたかったが、あと最低三往復は続くやりとり。さすがにまだそういうわけにはいかない。
「休日。魔王様の気分による」
「陛下はまことに寛大だ」
「先月の実績は」
「二日あった」
「一日は城が燃えて臨時休業です」
「結果として休めたのなら、福利厚生ではないか」
「災害です」
応募資格の欄には、剣術経験三年以上、呪いへの耐性、勇者と血縁でないこと、――それから死亡時の備品返却が並んでいた。リディアはすっと半眼になる。見間違い。急に視力が落ちたのであってくれと少し思った。
「ヴァルドさん。お聞きしますが、死亡後に備品を返す方法は」
「遺族に頼む」
「家族手当は」
「そんな余裕はうちにはない」
「無報酬で遺族に仕事を増やすんですか」
「本人が死ぬ前に返せばいい」
「戦場で鎧を脱ぎますか」
ヴァルドは初めて羊皮紙を手に取った。近眼なのか、細かく羅列する文章を間近に眺め、しばらく黙っていた。
「……鎧は支給品ではない」
「そこですか」
リディアは赤いインクで上から下まで線を引いた。
「書き直します。交代制。月八日の休日。危険手当あり。遺族への連絡は希望制」
「精鋭が集まらない」
「今の条件では、読み書きのできる人から逃げます」
「兵に読み書きは要るか?」
「求人票を読ませるところから始めているんですよ、私たちは」
扉を誰かが叩いた。返事の前に開いて、骸骨の頭だけが意思を持ったように床を転がり込んでくる。
爬虫類を思わせる瞳孔を細めたヴァルドはそれを拾う。それからいやに丁寧に、両手で机へ置いた。
「志願者だ」
「面接は」
「見てわからんか。もう死んでいる。退職の心配がない」
空洞の眼窩が、リディアの方を向いていた。
ばかばかしい茶番なりに一応、リディアは羊皮紙を目の前に広げる。
「文字、読めますか」
顎が鳴った。二回、かちかちと。答えなのか骨が緩んでいるのか、確かめる方法がない。
「優秀そうだ」
「まだ何も答えていません」
リディアは新しい羊皮紙を引き寄せた。
「書いてみてください」
「書けるわけがない」
「……わかってらっしゃるじゃないですか」
ヴァルドはきまり悪いのを誤魔化すように、ふんと鼻を鳴らした。
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