研究でアンケート調査を行うとき、まず考えるのは質問項目ではないでしょうか。
「どのようなことを聞けばよいのか」
「質問はいくつくらい必要なのか」
「回答者が答えやすい文章になっているか」
こうしたことを考えながら、質問紙を作成していくと思います。
ただ、質問紙を作成するときに、もう一つ考えておきたいことがあります。
それは、集めた回答をどのように分析するのかということです。
実際に回答を集めてみたものの、どのように集計すればよいのか分からない。
質問項目はたくさんあるのに、研究目的に答えるために必要な情報が足りない。
そんな状況になってしまうこともあります。
今回は、アンケート調査を始める前に考えておきたい、質問紙と分析の関係について書いてみます。
質問項目をたくさん作れば、研究目的に答えられる?
質問紙を作成していると、聞きたいことが次々に出てくることがあります。
「この項目も必要かもしれない」
「せっかく調査するのだから、これも聞いておこう」
そう考えているうちに、質問項目が増えていくこともあると思います。
もちろん、研究目的を達成するために必要な情報は、十分に収集する必要があります。
ただし、質問項目が多ければ多いほど、よい研究になるわけではありません。
例えば、「看護師の経験年数によって、ある看護実践に対する認識が異なるのか」を明らかにしたい研究があったとします。
この場合、経験年数と看護実践に対する認識を、どのように測定するのかが重要になります。
ところが、勤務環境や研修経験、職場の人間関係など、関連しそうな内容を次々に追加していくと、質問紙は長くなります。
それらが研究目的に必要な情報であれば問題ありませんが、何のために聞くのか説明できない項目が増えてしまうと、後から分析するときに困ることがあります。
質問紙を作るときは、**「何を聞きたいか」だけでなく、「その回答を何のために使うのか」**まで考えておきたいところです。
回答形式が変わると、分析の方法も変わる
同じ内容を質問する場合でも、回答形式によって得られるデータは変わります。
例えば、看護実践に対する自信について質問するとします。
「自信がありますか?」という質問に対して、「ある・ない」の2択で回答してもらう方法があります。
一方、「まったく自信がない」から「非常に自信がある」までの5段階で回答してもらう方法も考えられます。
さらに、「どのような場面で自信があると感じますか?」と自由記述で回答してもらうこともできます。
これらは、似た内容を聞いているようでも、得られるデータの性質が異なります。
2択であれば回答の割合を比較することが考えられますし、5段階の回答であれば順序のあるデータとして扱う必要があります。
自由記述であれば、文章の内容を整理し、意味や特徴を分析する方法が考えられます。
また、5段階の回答を数値化したからといって、必ずしも平均値を計算して比較すればよいとは限りません。
尺度の性質や研究目的、分析方法に応じた判断が必要です。
つまり、質問項目を作成するときには、文章だけでなく、どのような回答形式にするのかも重要になります。
回答しやすさと、研究目的に合ったデータが得られること。
その両方を考えながら設計する必要があると思います。
自由記述を増やしすぎていませんか?
質問紙を作成するとき、自由記述は便利な方法です。
あらかじめ用意した選択肢では捉えきれない考えや経験を、回答者自身の言葉で記述してもらうことができます。
特に、まだ十分に明らかになっていない現象を探索する研究では、自由記述が役立つ場合があります。
ただし、自由記述を増やせば、それだけ多くの情報が得られるとは限りません。
回答者にとっては、文章を考えて記入する負担が大きくなります。
また、回答が短い場合や、質問の意図とは異なる内容が書かれている場合もあります。
研究者側も、得られた文章を読み、意味を整理し、必要に応じてコード化やカテゴリー化などを行う必要があります。
例えば、100人を対象とした質問紙に自由記述項目が10個あった場合、最大で1,000件の記述回答を扱うことになります。
もちろん、実際の回答数や文章量によって作業量は変わりますが、分析には相応の時間が必要になるでしょう。
だからといって、自由記述を減らせばよいということではありません。
大切なのは、自由記述によって何を明らかにしたいのか、その回答をどのような方法で分析するのかを考えておくことです。
研究目的によっては、自由記述を中心とした調査が適切な場合もあります。
一方、単に「詳しい意見も聞いておきたい」という理由だけで追加すると、分析方法が定まらないままデータだけが増えてしまうことがあります。
複数回答の質問は、集計方法まで考えておく
質問紙では、「当てはまるものをすべて選んでください」という複数回答形式を使用することがあります。
例えば、「これまでに受講した研修をすべて選んでください」という質問です。
複数回答は、回答者の経験や状況を幅広く把握するために便利です。
ただし、集計するときには注意が必要です。
例えば、100人の回答者がいて、研修Aを受講した人が60人、研修Bを受講した人が50人、研修Cを受講した人が30人だったとします。
この場合、合計は140人になります。
これは一人が複数の研修を選択できるためであり、集計の誤りではありません。
ただし、割合を示す際には、回答者数を分母にするのか、選択された回答の総数を分母にするのかによって意味が変わります。
また、選択肢の作り方にも注意が必要です。
「その他」を設ける場合、その内容を自由記述してもらうのか。
「該当なし」と他の選択肢を同時に選べないようにするのか。
こうした点を考えておかないと、集計時に判断が難しくなる場合があります。
質問紙を作成するときには、回答者が迷わず答えられるかだけでなく、集計したときに意味が明確になるかも確認しておきたいところです。
調査を始める前に、集計表を作ってみる
質問紙を作成するとき、私が大切だと思うのは、調査を始める前に一度、集計結果を想像してみることです。
例えば、質問紙を作成した段階で、Excelなどを使って仮の集計表を作ってみます。
対象者の属性はどのように整理するのか。
各質問項目の回答数や割合はどのように示すのか。
群間比較を行う場合には、どの項目とどの項目を比較するのか。
こうしたことを具体的に考えてみます。
さらに、実際の回答を想定した仮データを数件入力してみると、問題に気づくことがあります。
例えば、経験年数を比較したいのに、質問紙では経験年数の区分が粗すぎて、予定していた比較ができないかもしれません。
あるいは、複数の質問項目をまとめて評価するつもりだったのに、得点化の方法が決まっていないことに気づく場合もあります。
ただし、複数項目を合計して尺度得点として扱う場合には、その尺度の妥当性や信頼性、得点化の根拠を検討する必要があります。単に数値を足し合わせればよいわけではありません。
また、仮の集計表を作ることは、望ましい結果が出るように質問を調整するためではありません。
研究目的に答えるために必要なデータが、適切に収集できる設計になっているかを確認するためです。
この作業を調査前に行っておくと、質問紙の不足や分かりにくさを見つけやすくなると思います。
回答者に伝わる質問になっているかも確認したい
分析のことを考えるのは大切ですが、それだけでよい質問紙が完成するわけではありません。
回答者が質問の意味を理解できなければ、研究者が意図したデータを得られない可能性があります。
例えば、「日常的に適切な看護実践を行っていますか?」という質問があったとします。
この場合、「日常的」とはどの程度の頻度なのか、「適切」とは何を指すのかが曖昧です。
また、一つの質問の中に複数の内容が含まれている場合も注意が必要です。
「患者への説明と家族への支援を適切に行っていますか?」という質問では、患者への説明は行っているけれど、家族への支援は十分にできていないという人が、どのように回答すればよいのか迷うかもしれません。
こうした問題を防ぐためには、質問紙を作成した研究者だけで確認するのではなく、研究対象者に近い立場の人に、質問の意味が伝わるか確認してもらう方法もあります。
必要に応じて予備調査や認知的インタビューなどを行い、質問の理解や回答のしやすさを検討することも考えられます。
なお、既存の尺度を使用する場合には、使用許諾や原版の構成、得点化方法などを確認し、安易に項目や回答形式を変更しないことも重要です。
質問紙は、研究者が聞きたいことを並べるだけではなく、回答者が正しく理解して回答できる形にする必要があります。
最後に
アンケート調査では、回答を集めることに意識が向きやすいと思います。
しかし、研究の目的は回答をたくさん集めることではありません。
集めたデータを適切に分析し、研究目的に対する答えを明らかにすることです。
そのためには、質問紙を作成する段階から、どのようなデータが得られ、それをどのように分析するのかを考えておく必要があります。
質問項目と研究目的が対応しているか。
回答形式は適切か。
自由記述や複数回答の扱いを考えているか。
そして、回答者に質問の意味が正しく伝わるか。
こうした点を調査前に確認することで、回答を集めた後に困る状況を減らせると思います。
アンケートは、回答を集めるためだけに作るものではありません。
研究目的に答えるために、必要な情報を適切に収集するためのものです。
質問紙を作成するときには、回答を集めた後のことまで考えておきたいところです。
関連記事