デイケアに通い始めて一年半が過ぎようとしていた頃。 穏やかな日々の中で、少しずつ心が落ち着きを取り戻していくのを感じながら、私は復職という現実を意識し始めていました。 リワークにも取り組み、前に進んでいるはずなのに―― 胸の奥では、静かに波が立っていました。
「このまま復職して、本当に大丈夫なのかな」 「また、あの頃のように働けるのかな」
そんな思いが、ふとした瞬間に押し寄せてくる。 未来が霧に包まれたように見えなくなり、胸の奥がきゅっと締めつけられるような不安に襲われることもありました。
デイケアで学んだこと、気づいたこと、たくさんの支えがあったとしても、 “この先ずっと働き続けていけるのか” という問いだけは、どうしても心に残り続けていました。
そんなある日、主治医の先生に相談したとき、 「障がい者手帳という選択肢もありますよ」 と静かに告げられました。
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がざわつきました。
デイケアでも手帳の話を耳にしたことはありましたが、 どこか遠い世界の出来事のように感じていました。 会社では身体障がいの方と接する機会はあっても、 精神障がいの手帳について触れることはほとんどありませんでした。
もしかしたら、ただ知らなかっただけなのかもしれない。 あるいは、知ろうとしてこなかったのかもしれない。 “健常者として生きてきた自分”にとって、障がいというものはどこか他人事のように思っていたのだと思います。
だからこそ、 “自分が障がい者手帳を取得する” という発想は、これまで一度も持ったことがありませんでした。
それでも、当時の自分の状態を考えると、 この選択は避けて通れない、大切な分岐点であると感じていました。
デイケアの仲間の中にも、手帳を持つ人、持たない人、さまざまな考え方がありました。 「そんなハンデは背負いたくない」と言う人もいました。 その言葉を聞くたびに、胸の奥が少しだけ痛みました。
私は、障がい者として生きることに抵抗があったわけではありません。 ただ、手帳を持つことで自分がどう変わるのか、 どんなメリットやデメリットがあるのか、 冷静に、そして正直に向き合う必要がありました。
特に精神疾患は、見た目ではわかりにくい。 以前の復職時に感じた、 「どんな病気なの?」 「何が悪いの?」 「どう接すればいいの?」 という周囲との理解のギャップは、私にとって大きな傷でした。
精神障がい者手帳を取得することで、 そのギャップを少しでも埋められるのではないか―― そんな期待もありました。
制度上のメリット・デメリットを慎重に検討し、 私は主治医の先生に申請をお願いしました。
そしてしばらくして、デイケア在籍中に 精神障がい者保健福祉手帳・2級 を取得することになりました。
その瞬間、胸の奥で何かが静かに変わりました。
私はここで、“健常者としての生き方”ではなく、 障がい者として生きる道 を選びました。
その選択は、私の人生を大きく変える “未知の世界への入口” になりました。