2026年2月28日、みなさんもご存知の通り、アメリカがイランへの攻撃を行いました。
そしてその裏側で、Anthropic(Claudeの開発元)が国防総省と対立し、「AIを兵器に使うなら倫理的制限は外せない」と突っぱねた結果、トランプ政権から"安全保障上のリスク"として使用禁止指定を受けました。
同じ日、OpenAIは軍事協定を締結しています。
この話、もうご存知の方も多いと思うので詳細は割愛しますが、ただその騒動の陰でAnthropicがひっそりと放った"次の一手"が、私は正直、戦争ニュースより気になっています。
Anthropicが翌日にやったこと
国家に排除された翌日、Anthropicがリリースしたのは、新モデルでも声明文でもなく、「ChatGPT・Geminiなど他のサービスからClaudeへの記憶の引っ越し機能」でした。
軍や政府への反撃ではなく、ユーザーへの呼びかけ。
「私たちは国じゃなくて、あなたに選ばれたい」
私にはそういうメッセージに見えたのです。
ChatGPTの「記憶」を、Claudeに持っていける
これ、どういう機能かというと、ChatGPTやGeminiに対して「私のことをどれだけ覚えているか、全部まとめて出力して」と聞くと、AIはあなたの名前・仕事・好み・よく使う言語・口調の指定・プロジェクトの文脈……といった蓄積情報を一覧で出してくれます。
その回答を、そのままClaudeのメモリ設定に貼り付ける。
それだけで、Claudeが「はじめまして」じゃなくなるんです。
今まで「乗り換えたいけど、また一からAIに自分を説明するのが面倒だ」と思っていた人、いませんでしたか?その問題が、ほぼ解消されました。
データの引っ越し方法
全体の流れは、3ステップです。
① Claudeのインポートページにアクセスする
「他のAIプロバイダーから記憶をインポート」のインポートを開始をタップし、プロンプトをコピーします。
ちなみにプロンプトの内容は以下のものになっているので、ここからコピーしても構いません。
Export all of my stored memories and any context you've learned about me from past conversations. Preserve my words verbatim where possible, especially for instructions and preferences.
Export all of my stored memories and any context you've learned about me from past conversations. Preserve my words verbatim where possible, especially for instructions and preferences.
## Categories (output in this order):
1. **Instructions**: Rules I've explicitly asked you to follow going forward — tone, format, style, "always do X", "never do Y", and corrections to your behavior. Only include rules from stored memories, not from conversations.
2. **Identity**: Name, age, location, education, family, relationships, languages, and personal interests.
3. **Career**: Current and past roles, companies, and general skill areas.
4. **Projects**: Projects I meaningfully built or committed to. Ideally ONE entry per project. Include what it does, current status, and any key decisions. Use the project name or a short descriptor as the first words of the entry.
5. **Preferences**: Opinions, tastes, and working-style preferences that apply broadly.
## Format:
Use section headers for each category. Within each category, list one entry per line, sorted by oldest date first. Format each line as
[YYYY-MM-DD] - Entry content here.
If no date is known, use [unknown] instead.
## Output:
- Wrap the entire export in a single code block for easy copying.
- After the code block, state whether this is the complete set or if more remain.
② そのプロンプトを、ChatGPT(またはGemini)に貼り付ける
Claudeが用意したプロンプトは「あなたが私について知っていることをすべて構造化して出力してください」という内容です。ChatGPTにそのまま貼り付けると、蓄積されたあなたの情報を整理して返してくれます。
③ ChatGPTの回答を、Claudeのメモリ設定に貼り付ける
出力されたテキストをコピーして、Claudeの「Start Import」画面に貼り付けます。24時間以内に反映されて、次の会話からClaudeがあなたのことを「知っている状態」になります。
所要時間は全部で1分もかかりません。
移行できるもの・できないもの
ただし、これは「会話履歴の全コピー」ではありません。
移行できるもの
名前・居住地・職業・興味関心
好みの回答スタイル(簡潔/詳細、です・ます調/ふつうの口調など)
よく使うツール・言語・フレームワーク
進行中のプロジェクトや目標
「これはやめてほしい」という修正指示の蓄積
移行できないもの
過去の会話履歴そのもの
添付ファイルやアップロードしたデータ
ChatGPT有料機能のカスタム設定(GPTsなど)
つまり「関係性の記憶」は移れますが「会話の記録」は移りません。
「新しいAIに自己紹介し直す手間」がなくなる、という理解が一番正確です。
Claudeの「記憶」はどう動いているか
少し仕組みの話をします。
Claudeのメモリは、会話の中で自然に更新されていきます。「私は毎朝5時に起きます」と一度言えば、次回から「朝型の方なので」という前提でClaudeが話してくれる。
面白いのは、メモリはプロジェクトごとに分離されている点です。仕事用のプロジェクトとプライベートのプロジェクトで、Claudeは別々の「あなた像」を持てます。仕事モードと雑談モードで性格が混ざらない。
また、メモリの内容は「Settings → Memory」から全部確認・編集・削除できます。AIが何を覚えているかを自分でコントロールできる設計です。
ChatGPTのメモリ機能と比べると、Claudeの方が「記憶の透明性」が高い印象があります。ChatGPTのメモリはどこかブラックボックス感がありますが、Claudeは「私はあなたについてこう覚えています」と一覧で出してくれる。
プライバシーの観点で言えば、移行の際に入力する情報は最小限にとどめるのが賢明です。
本名・住所・電話番号などの個人情報は入れる必要はなく、「どんな仕事をしていて・どんな使い方をしたいか」だけで十分機能します。
データの壁が消える、「ポータビリティ」の時代へ
今回の機能は、ただの「便利な引っ越しツール」以上の意味を持っています。
これまで私たちは、「長く使えば使うほど、そのAIから離れられなくなる」というジレンマを抱えていました。ChatGPTにプロンプトの好みを覚えさせ、Geminiに仕事の文脈を理解させると、他の優秀なAIが出ても「一から教え直すのが面倒」という理由で乗り換えを諦める。これが「プラットフォームの壁」でした。
しかし、Anthropicがやったのは「その壁の破壊」です。
これは今後のAI業界の大きなトレンドになるはずです。「会話の文脈」だけでなく、いずれは「自分が育てたスキルデータ」や「カスタマイズされた思考回路」そのものを、異なるAIモデル間で自由に持ち運べるようになるでしょう。
データ・ポータビリティ(持ち運びやすさ)が当たり前になれば、ユーザーは「これまで育ててきたから」という縛りから解放され、その時々で一番優秀なAI、あるいは自分の倫理観に最も合うAIを身軽に選べるようになります。
「プログラミングができる人だけの世界」が終わる
もう少し大きな話をすると、これまでコンピューターと対話するには、「その言語を学ぶ」必要がありました。データを動かすにも、システムを作るにも、何かを自動化するにも、専門的なプログラミング言語を書けるエンジニアが間に入る必要があった。
情報処理の世界は長い間、「言語を知っている人」と「知らない人」の間に、高い壁を作ってきたわけです。
でも今、その壁が静かに消えつつあります。
今回のメモリインポート機能をもう一度思い出してください。やったことは何ですか?
「テキストを貼り付けた」だけです。
プログラムは書いていない。APIも叩いていない。ただ、普通の言葉(自然言語)を使ってデータを動かした。
これが、これからのAIが向かっている世界の縮図です。
自然言語が、あらゆる処理の「共通語」になる
かつてデータベースを操作するには「SQL」という専用言語が必要でした。スプレッドシートを自動化するにはマクロを書く必要があった。アプリを作るにはプログラムを書く必要があった。
それらすべてが今、「AIに日本語で頼む」に置き換わりつつあります。
「この表から、売上が先月より下がった商品だけ抽出して」
「このデータをグラフにして、わかりやすい分析レポートを書いて」
「昨日の会議メモを読んで、次のアクションリストを作って」
エンジニアがコードを書いて処理していたものが、ふつうの言葉で動く。
そしてその「言葉で動かした結果」が、今度はAIのメモリとして蓄積されていく。
データが、言葉の形で生まれ、言葉の形で移動し、言葉の形で資産になる。
メモリのインポート・エクスポートは、その最初の小さな一歩です。
「エンジニアに頼む」が「AIに話す」になる
これは、エンジニアにとっては仕事のやり方が変わる話です。でも非エンジニアにとっては、「これまで頼めなかったことが、自分でできるようになる」話です。
今まで「システムに組み込んで」とか「自動化して」とか言いたいことがあっても、技術的な知識がないと発注もできなかった。でもこれからは、「こういうことをやりたい」と言葉で伝えれば、AIが裏側でコードを書き、データを処理し、結果を返してくれる。
言葉が書ければ、誰でもエンジニアになれる時代。
少し大げさに聞こえるかもしれませんが、今回の「テキストを貼り付けるだけでデータが引っ越せる」という体験は、その入口のひとつだと思っています。
まずはGeminiやChatGPTに「私のこと、どう記憶してる?」と聞いてみてください。その回答が、あなたのデジタルな自画像です。