私は、英語教育を専門とし、高校・大学で長年、英語を教えてきた。
英語を教えるだけでなく、第二言語習得や英語教授法について学びながら、生徒がどのように英語を学ぶのか、どこでつまずくのか、そして、どうすれば自ら学ぶ力を身につけられるのかを考えてきた。
だからこそ、これからネットで英語教育に関わろうとするとき、どうしても気になることがある。
「短期間で合格」という魅力
ネットでは、「短期間で英検に合格」という言葉をよく見る。
「○か月で2級合格」
「最短で準1級合格」
生徒や保護者にとって、成果が分かりやすいからだ。
もちろん、英検に合格することは大切だ。
「合格したい」という生徒の夢があるなら、私はその夢をかなえるために力を尽くしたい。
必要な語彙や文法を身につけ、Reading、Listening、Writing、Speakingの力を伸ばし、試験の傾向を分析して、合格に向けた学習を進める。
あらかじめ学習計画があれば、「いつまでに何をすればいいのか」が明確になる。
合格という目標に向かって、効率よく学ぶことができる。
これは、とても大切なことだと思う。
けれども、長年英語教育に携わってきた私は、そこで立ち止まって考えてしまう。
合格できれば、それで教育は成功なのだろうか。
英検合格と「英語を身につけること」は同じではない
そもそも、言語は短期間で簡単に身につくものではない。
言語は、単なる単語や文法の知識ではない。
その人のIdentity(アイデンティティ)とも深く関わっている。
そして、その言語が使われる社会や文化、価値観、ものの見方とも結びついている。
だから、英語を学ぶということは、英語の問題に正解できるようになることだけではない。
英検では、与えられた文章を読み、問いに答える。
決められたテーマについてWritingを書く。
質問を聞いて、それに答える。
こうした力は、もちろん重要な英語力である。
しかし、実際に英語を使う場面では、それだけでは足りない。
相手の言っていることが分からなければ、どう聞き返すのか。
言いたいことを知っている表現で言えなければ、どう別の言い方をするのか。
相手の文化や価値観を理解しながら、どう自分の考えを伝えるのか。
そして、大学や社会に出て、今まで経験したことのない課題に出会ったとき、どうやって自分で学んでいくのか。
そこには、試験の合格とはまた違う力が必要になる。
「教えてもらう」から「自分で学ぶ」へ
あらかじめ決められた学習計画に沿って勉強すれば、合格には届きやすい。
何をいつまでにやるのかが分かっている。
次に何をすればいいのかも分かっている。
これは、合格という目標を達成するためには、とても効率的な方法だ。
しかし、その方法だけで学んでいると、生徒自身が、
「自分にとって効果的な方法は何だろう」
と考える機会が少なくなるのではないか。
人生では、いつも誰かが学習計画を作ってくれるわけではない。
大学に入れば、自分で学ばなければならない。
社会に出れば、仕事に必要なことを自分で学ばなければならない。
そして、思い通りにいかない壁にぶつかったとき、そこには決められた答えはない。
そのとき必要なのは、
自分で問題を見つけ、自分で方法を考え、試行錯誤する力
ではないだろうか。
それでも、私は「合格」をかなえたい
だからといって、私は英検合格を軽視しているわけではない。
むしろ逆だ。
生徒が「この級に合格したい」と思っているなら、その夢をかなえてあげたい。
合格という明確な目標に向かって努力することは、生徒にとって大きな意味を持つ。
問題は、合格をゴールにしてしまうのか、それとも、その先につなげるのかということだ。
ネットの教育ビジネスでは、「短期間で合格」という分かりやすい成果を示すことが必要なのかもしれない。
それなら、私はまず「合格」という入口から、生徒と出会いたい。
そして、その合格までの道のりの中で、
「自分はどう学べばいいのか」
を少しずつ考えられるようにしたい。
合格した後も、自分で学び続けられるようにしたい。
英語を通して、異なる文化や価値観に触れ、自分自身の世界も広げてほしい。
「合格」を売る。
でも、本当に育てたいのは、その先の力。
この二つをどう両立させるのか。
これが、私のジレンマである。