人前で発表する際、アガり対策として、
「目の前にいる人たちをかぼちゃと思え」という言い伝えがある。
実際に自分も試してみたが、目の前にいるクラスメイトや先生、勤務先の課長をかぼちゃとして見ることはできなかった。
そのかわり、意識をしなくても人が「カニ」に見える瞬間がある。
毎朝、毎晩、場所のいかんを問わずどこでも見られる光景。それは電車の中だ。
見るたびにカニが頭をよぎる。
ズワイガニ、タラバガニ、毛蟹さまざまあるが、読者の皆様はイメージしやすいカニを、それぞれ自由にお選びいただければと思う。
1列、2列、または3列と行儀よく列をなし、電車の到着を待ち望むカニたち。
電車が到着する。
みなぎる緊張感。一歩、また一歩と目的地まで運んでくれる長方形の乗り物に滲みよる。
ドアが開く。
引き潮を待ち望んだかのように、一斉に四方へ散らばり、座席という自分の縄張りを得て居住まいを正す。安堵の表情を浮かべるカニ、眉間にシワを寄せるカニ、笑顔のカニ、自分の殻に閉じ籠るカニ、速攻寝るカニ。
隅の席が空いた瞬間、腰をひょいとあげるカニ。
そのまま中腰で顔はまっすぐ正面を見据えて、
カニ歩き。
サッサッサッ・・・
またひとつ新しい縄張りを形成する。
他のカニたちから、羨望の眼差しが向けられる。
ぎゅうぎゅうで身動きの取れない満員電車は、まさにカニ缶状態。
隣に他のカニがくると、まずは品定めをする。
一方のカニは視線を合わせようとしない。
これは、大人のカニ対応だ。
目を合わせたら、お互いの縄張りを守るために争いが始まってしまうかもしれないから。
共食いには十分ご注意を。
SNSにより車内トラブル、俗にいう「炎上動画」が拡散される時代。
自分は炎上という言葉が好きではない。
大きいことも、小さいことも炎上というひと言で括られる。なにかにつけて焚き付けないでほしい。
カニからすると、「カニめし」と言ったところか。
カニにとっては、おいしくない話。
炎上動画なんてなくなればいい。
持つべきは、縄張りではなく思いやり。