第8話「夜の校舎、ふたりだけの時間」

第8話「夜の校舎、ふたりだけの時間」

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文化祭も終盤を迎え、校舎は少しずつ静けさを取り戻していた。

午後の喧騒が残る教室には、まだ色紙や装飾が散乱し、段ボールの匂いが微かに漂う。
窓の外では、夕暮れの光が柔らかく差し込み、オレンジ色の光が机や床を温かく照らしていた。

「…やっと、静かになったね」

小さな声に、心が少し落ち着く。
教室の片隅で、椅子に腰かけながら手帳を閉じる。
窓の外の景色は、さっきまでの騒がしさとは全く違い、静かな時間を演出していた。

昨日、ついにお互いの気持ちを伝えたはずなのに、
胸の奥にはまだ言葉にできない感情が渦巻いていた。
嬉しさと緊張、安堵と不安。
それらが入り混じった状態で、心がまだ落ち着かない。

(どうして素直に言えないんだろう)

机に置かれた装飾用の紙を手に取り、指先で軽く触れる。
その感触さえも、昨日の手の感触を思い出させ、心臓が小さく跳ねる。

隣にいるあの人は、普通に作業を続けている。
視線を合わせても、完全には心を開かない。
その距離感が、心を余計にざわつかせる。

「今日、ここに貼るのはどっち?」

短い声。
その声に反射的に手を伸ばす。
でも、手が微かに触れそうになった瞬間、
胸の奥が熱くなる。

(この距離感、もう耐えられないかもしれない)

目の端でチラリと見る。
あの人も、わずかに手が触れるのを意識しているようだった。
だけど、顔には出さず、ただ淡々と作業を続ける。

心臓の音が耳に響く。
呼吸が少し速くなる。
手は冷たいのに、胸の奥は熱い。

午後の光が、二人の距離を柔らかく照らす。
沈黙の時間が続く中、何かを伝えたい気持ちが湧き上がる。

(言いたい…でも言えない)

手元の作業に意識を集中させようとするけれど、
視線はどうしてもあの人に向かってしまう。

微かに笑ったその顔を見た瞬間、
胸がぎゅっと締め付けられた。

「…笑った?」

不意に声がかかる。
振り向くと、あの人が少し目を細めて笑っていた。

「笑ってないし」

反射的に答える。
でも、心の奥では、自然に笑ってしまったことを隠せない。

「いや、笑ってたよ」

短い言葉なのに、胸に響く。
その返事に、思わず顔が赤くなる。
目を逸らしたくなるけれど、心は逆に奪われる。

(やばい…こんな気持ちになるなんて)

作業を続けながらも、視線は自然とあの人を追ってしまう。
手元の色紙に触れる指先も、心なしか震えている。

「もう…これ以上近づいたら、どうなるんだろう」

小さく呟く自分の声に、思わず顔を伏せる。

夕暮れの光が、教室を柔らかく包む。
外の空気は少しひんやりしていて、でもどこか温かさも感じる。

「…ねえ」

小さな声が、心臓をさらに高鳴らせる。
振り向くと、あの人が少しだけ近づいている。

「…今日は、なんか、緊張するね」

淡い声。
でも、その言葉に胸が熱くなる。

その瞬間、距離が近くなった気がした。
肩が触れそうで、触れない微妙な距離。
でも、その距離こそが、心のドキドキを増幅させている。

作業をしている手も、無意識に相手を意識している。
言葉にできない感情が、静かに、でも確実に二人を繋げていく。

夕暮れが徐々に夜へと変わる中で、
教室の空気は二人だけのものになった。

この夜が終わると、
文化祭当日の喧騒を抜けた後の二人の関係が、
さらに大きく動き始める予感があった。

続く。
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