【新堀武司】「空席」を売らない店は必ず潰れる
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街中を歩いていると、たまに予約でいっぱいですと書かれた看板を出したまま、店内には数席の空きがあるレストランを見かけることがあります。普通に考えれば、その空いている席に客を入れれば、その分だけ売上が上がるはずです。効率や利益を最優先する人から見れば、それは機会損失という名の罪深い行為に映るかもしれません。しかし、私がこれまで巨大な銀行の仕組みや、企業の複雑な成長戦略を設計してきた経験から言わせてもらうと、この「あえて空席を残す」という判断こそが、その店の寿命を何倍にも延ばす魔法のスパイスに見えるのです。
もしその店が、一分の隙間もなく客を詰め込んだとしましょう。キッチンは常に限界のスピードで調理し、ホールスタッフは一息つく間もなく走り回ります。一見、フル稼働で理想的な状態に見えますが、これは非常に脆い積み木のようなものです。誰か一人がお冷をこぼす、あるいは一組の客が長居をする。そんな小さなイレギュラーが一つ発生しただけで、全体の流れが止まり、料理の提供が遅れ、店内の空気は一気に殺伐としたものに変わります。余裕がない場所では、サービスという名の品質が真っ先に犠牲になるのです。
私がシステムを設計する際、最も大切にするのは「バッファ」と呼ばれる余裕です。どんなに優れた仕組みでも、百パーセントの力で動かし続けると、必ずどこかに歪みが生じて壊れます。あえて八割の力で動かし、残りの二割を「予期せぬ事態への備え」として空けておく。この二割の空白があるからこそ、トラブルが起きても柔軟に対応でき、結果としてお客様に提供する価値を一定以上に保ち続けることができます。空席は、ただのムダな空間ではありません。それは、最高のおもてなしを維持するための、目に見えない保険料なのです。
これは、私たち個人の働き方や、スキルアップの計画にも全く同じことが言えます。スケジュール帳を予定でびっしり埋め、一分の無駄もなく動き回ることを美徳としている人は多いですが、それは自らを壊れやすいシステムに変えているようなものです。新しい知識を吸収したり、ふとしたアイデアを形にしたりするための「空席」を自分の中に持っていない人は、変化の激しい現代において、いざという時の方向転換ができなくなってしまいます。
私がココナラを通じて皆さんに提供したいのも、実はこの「余裕」の設計です。あなたのビジネスや日常から、目一杯に詰まった無駄な作業を削ぎ落とし、あえて豊かな空席を作るお手伝いをすること。そうして生まれた空白にこそ、新しいチャンスや、本当に大切にすべき創造的な時間が流れ込んできます。目先の利益のために空席を売ってしまうのではなく、未来の信頼のために空席を守り抜く。そんな逆転の発想が、あなたの人生という物語を、より長く、より魅力的なものに変えていくはずです。忙しさに追われて大切なものを見失いそうになったら、まずは自分のお盆の上に、一切れの沢庵のような、小さな空白を置くことから始めてみてください。