振り子のように揺れるキャリア論
「これからはAI時代だから、プログラミングやデータサイエンスを学ぶべきだ(市場価値・トレンド重視)」
「いや、人生一度きりなのだから、ワクワクすることを仕事にすべきだ(好き・得意重視)」
キャリアに関するアドバイスは、常にこの二つの極を行ったり来たりしています。
真面目な人ほど、「今のスキルは時代遅れになるのではないか」と焦り、逆に「今の仕事は好きではないが、食うためには仕方ない」と我慢を重ねてしまいます。
結論から言えば、この二つは「どちらかを選ぶもの」ではありません。
車の「両輪」のような関係であり、「トレンドに乗ること(稼ぐ)」と「自分を活かすこと(楽しむ)」をどう組み合わせるかが重要です。
今回は、市場価値という「波」と、自分の資質という「ボード」をどう操ればよいのか、そのディテールを紐解きます。
「市場価値(トレンド)」に合わせる生き方の正体
時代のニーズに合わせてスキルセットを変えていく、いわゆる「波乗り型」のキャリアです。
メリット(光):
「食いっぱぐれない」ことです。
需要がある場所に身を置くため、給与水準が高くなりやすく、転職もしやすい。「生活の安定」という意味では最強の戦略です。
デメリット(影):
「終わりのない競争」に陥るリスクです。
トレンドは常に変わります。
Web3が来たと思えばAIが来て、次は…と、常に新しい技術を習得し続けなければなりません。
また、そこに「自分の強み」がない場合、若くて安い労働力が出てきた瞬間に代替される「コモディティ化(替えがきく存在)」の恐怖と隣り合わせになります。
「好き・得意(資質)」で生きる生き方の正体
自分の内発的動機や才能をベースにする、いわゆる「職人・アーティスト型」のキャリアです。
メリット(光):
「継続力と差別化」です。
好きなことや得意なことは、努力を努力と思わずに続けられます。
結果としてスキルが深まり、誰にも真似できない「唯一無二のポジション」を築ける可能性があります。
デメリット(影):
「孤立と貧困」のリスクです。いくらその分野が得意でも、社会的なニーズ(市場)がなければ、それはビジネスではなく「趣味」です。
世の中に見向きもされないまま、自己満足で終わってしまう危険性があります。
「軸(Can)」を固定し、「場所(Where)」を市場に合わせる
では、どうすればいいのか。
おすすめしたいのは、「自分の『得意(Can)』を軸にして、それを活かす『場所(市場)』をトレンドに合わせる」というハイブリッド戦略です。
(1) 変えてはいけないもの:「得意(Can)」
「好き(Will)」は感情なので変わることがありますが、「得意(Can)」は変わりません。
「情報を整理するのが得意」
「人と仲良くなるのが得意」
「緻密な作業が得意」
この自分の強み(OS)は、キャリアの軸として固定します。
無理に苦手なトレンド技術を一から学ぶ必要はありません。
(2) 変えるべきもの:「市場(Where)」
固定した「得意」を、今、最も波が来ている市場で使います。
例: 「人と仲良くなるのが得意(営業力)」な人の場合
斜陽産業で営業をするのではなく、今なら「SaaS業界」や「AIスタートアップ」でその営業力を発揮する。
例: 「緻密な管理が得意(事務能力)」な人の場合
ただの一般事務ではなく、「リモートワーク組織のバックオフィス」や「プロジェクトマネジメント(PMO)」としてその能力を使う。
やること(得意な動き)は変えず、「それを展開する場所」だけを、市場価値の高いエリアへずらしていく。
これなら、無理なく高単価な仕事を得つつ、自分の強みを活かしたストレスの少ない働き方が可能になります。
キャリアの「賞味期限」と「更新」
市場価値を追うことは「守り(生活の安定)」のため。
好き・得意を活かすことは「攻め(やりがい)」のため。
キャリアの初期や、生活基盤が不安定な時は、まず「市場価値」を優先して、食える状態を作ることが先決です。
しかし、ある程度基盤ができたら、徐々に「得意・好き」の純度を高めていかないと、30代、40代で「何でも屋(器用貧乏)」になり、埋没してしまいます。
「今の自分は、市場に合わせる時期か? それとも個性を尖らせる時期か?」 この問いを定期的に投げかけることが重要です。
波は選べるが、乗り手は自分しかいない
「時代に合わせるか、自分を貫くか」 この問いに対する答えは、「自分の得意な乗り方(スタイル)で、一番いい波に乗れ」です。
全く興味のない流行りのスキルを、一から学ぶ必要はありません。
しかし、自分の得意なことが、誰もいない海(市場)で溺れていないかを確認する必要はあります。
「自分の『得意』という武器を、今の時代のどこに刺せば、最も高く売れるか?」
その接点を見つけた時、キャリアは「義務」ではなく、時代と共に成長を楽しむ「ゲーム」へと変わっていくはずです。