第9話「好きって伝わったのに、不安は消えない」
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文化祭が終わった翌日。
教室には、いつもの日常が戻っていた。
昨日まで飾られていた壁の装飾はなくなり、
机も元の場所に戻っている。
楽しかった時間が終わった寂しさ。
そして。
何かが変わったような、変わっていないような不思議な感覚。
窓の外を見る。
昨日まで、あんなに特別だった景色が、
今日は普通の学校の風景に戻っている。
でも。
自分の気持ちだけは、戻っていなかった。
「おはよう」
その声に振り向く。
あの人だった。
いつも通りの笑顔。
いつも通りの声。
なのに。
昨日までとは違って見える。
「おはよう」
たったそれだけの会話。
それなのに、胸が少し苦しくなる。
(好きって分かったのに)
(なんでまだ不安なんだろう)
文化祭の夜。
二人だけの教室で、
たくさん話した。
嬉しかった。
安心した。
このまま時間が止まればいいと思った。
でも。
日常に戻った瞬間、
また新しい不安が生まれていた。
相手は本当に同じ気持ちなのか。
昨日の時間だけが特別だったのではないか。
そんな考えが、
勝手に頭の中を巡る。
昼休み。
友達と話している姿を見る。
楽しそうに笑っている。
その笑顔を見るだけで嬉しいはずなのに。
なぜか少しだけ寂しくなる。
(自分だけが意識してるのかな)
そんな時だった。
「何見てるの?」
突然、声をかけられる。
驚いて振り向く。
そこにいたのは、本人だった。
「いや、別に」
慌てて目を逸らす。
「またそれ言う」
少し笑う。
その笑顔を見ると、
不安だった気持ちが少しだけ消える。
「ねえ」
少し真剣な声。
「昨日から、なんか変じゃない?」
ドキッとする。
全部見抜かれている気がした。
「変って?」
「なんか……距離取ってる感じする」
その言葉に驚く。
違う。
距離を取りたいわけじゃない。
むしろ逆だった。
もっと近づきたい。
もっと一緒にいたい。
でも。
大切になればなるほど、
失うことが怖くなる。
「……怖いんだよ」
気づけば、口に出ていた。
「え?」
「好きになったから」
「大事になったから」
「もし嫌われたらって思うと……」
言った瞬間、恥ずかしくなる。
こんな弱いところ、
見せるつもりじゃなかった。
でも。
相手は笑わなかった。
少し驚いた顔をしたあと。
優しく笑った。
「私も同じだよ」
その一言で、
胸の奥が温かくなる。
「好きって分かったから安心すると思ってた」
「でも、もっと大切になったから怖くなった」
同じだった。
不安なのは、
気持ちが足りないからじゃない。
大切だからこそ、
失いたくないと思っていたからだった。
「じゃあさ」
相手が少し照れながら言う。
「不安になったら、ちゃんと言おうよ」
「一人で考えすぎないで」
その言葉が、心に響いた。
恋は、楽しいだけじゃない。
嬉しいことも。
不安なことも。
全部含めて、
誰かを大切に思うことなのかもしれない。
文化祭で始まった小さな恋は、
ただのドキドキから、
少しずつ“信じる気持ち”へ変わっていった。
そして。
二人には、最後に向き合うべき未来が待っていた。
最終話
第10話「未来を占ってもらった日」へ続く。