テレビ局が取材したくなる企画とは?
テレビ局が「取材したい」と感じる企画は何か。
私の答えははっきりしています。
切れば切るほど魅力が出る、レイヤーが幾重にも重なった“厚みのある企画”
です。
一枚の要素(ワンカットの画)だけで押し切る企画は、よほど強烈でない限り、通りません。視聴者の記憶に刺すには、その先の展開が必要です。
例:巨大わたあめは“それだけ”では弱い
「巨大なわたあめ」という画(え)はインパクトがあります。
しかし、それ“だけ”では番組は動きにくい。記憶に残るにはレイヤーが必要です。
例えば次の要素が重なると、一気に物語が立ち上がります。
・毎日、店の外まで長い行列
・店内が驚くほど狭い作り
・作り手は大柄なマッチョのスタッフ
・インスタ映えするカラフルなビジュアル
・しかも高タンパクで意外と低カロリー
ここまで揃えば、「ただの大きなわたあめ」から「ちょっと行ってみたい」に変わります。
つまり企画の厚み=レイヤーの数。一つの画で止まるのか、複数の画とストーリーに展開できるのか――ここがメディアを動かす分岐点です。
なぜレイヤーの多い企画はメディアに選ばれやすいのか?
理由はシンプルで、撮れ高が多いからです。
撮れ高が多ければ、短尺でも濃くできるし、長尺にも耐える。結果として視聴率を取りやすいため、テレビマンに重宝されます。
厚みを作る「4つの基本要素」
私はいつも次の**4要素(画/数字/ストーリー/時流)**を必ず点検します。
1. 画(え)
まず画になるか。説明不要で目を奪うビジュアルはそれ自体が柱になります。
・歩道まで伸びる行列
・極端な外観・見た目の商品
・予想外のシチュエーション
・強烈な個性を持つ登場人物
画が弱い企画は、内容が良くてもスルーされがちです。
2. 数字
数字も一つの画です。テロップで出した瞬間にインパクトのある数字は強力な画と同じ説得力を帯びます。
・フォロワー100万人
・再生7000万回
・リピーター率95%
・このボリュームで500円
3. ストーリー
長めの尺で紹介されるにはストーリーが不可欠。
・なぜ作ったのか?/誰のために生まれたのか?
・偶然の出会いから生まれた経緯
・ユーザーの人生が変わった話
・商品が生んだ人と人のつながり
“売り込み”には人は疑いを持ちますが、“物語”には心が動くのです。
4. 時流
時代の流れに合っているか。SDGs、多様性、働き方改革など。
現場の用語でいう「入口」(今この企画をやる理由)があると通りやすい。
例:「夏休み真っ盛りの今…」「パリ五輪で盛り上がる中…」
後づけでも構いません。“今”に接続できれば十分です。
レイヤー構造が生む説得力(組み立て例)
「再生素材を使ったエコなスニーカー」を売り出す場合:
画:オールグリーンの配色や段ボール風の質感など、視認性の高い見た目
数字:販売10万足突破、JBAのプロ選手の◯割が採用
ストーリー:廃材回収業者とメーカーの出会いから誕生
時流:SDGs/エシカル消費への貢献
訴求文もレイヤーを束ねると、説得力が一気に増します。
再生素材のスニーカーが新登場。エコを体感できるオールグリーンの一足は、JBAプロの◯割が使う実力派。発端は、メーカーと廃品回収業者の“偶然の出会い”。SDGsに真っ直ぐ向き合った結果でした――。
逆に「エコ素材で作りました」一枚だけでは、撮れ高が想像できず、取材の優先度は上がりません。
最重要は「感情を動かせるか」
4要素を策定する上で最も重要なポイントは「感情を動かせるか?」です。
驚き・笑い・感動・共感・寂しさ――いずれかに触れた瞬間、人は行動したくなります。
画で笑い、数字に驚き、ストーリーで感動し、時流に納得する。
こうなれば、”取材を請われる側”に回れます。
例:ロボットが接客するカフェ
驚き:人間そっくりのアンドロイドが応対
笑い:有名人風に顔が切り替わる仕掛け(微妙に似ていないのも逆に良い)
共感:人手不足という社会課題への解
感動:介護領域で孤独な高齢者が笑顔に
面白ネタに社会性が乗ると、企画は一段上の強度になります。
「厚みのある企画」を作るプロセス
依頼を受けたら、私はまず現場に行って自分で取材します。
テレビから取材される前に、こちらが取材者になるのです。
そうすることで足りないピースが見えてきます。
現場・現物の一次観察
商品・サービスを直接見て、面白い画の有無を確認。無ければ、画が立つように見せ方や体験導線を微調整します。
ビジュアル最優先の洗い出し
製造・販売プロセス、登場人物(社長・現場担当・顧客・ユーザー)を深掘り。人物そのものが画になるケースも多い。
ストーリーの発掘
「なぜ作った?」「誰のため?」「どう変わった?」を徹底ヒアリング。感情が動く話を拾い上げます。
数字で補強
販売・DL・継続率・SNS反響などを検証。サプライズ感のある数字は強い武器。
時流への接続(入口づくり)
“今やる理由”を設計。後づけでもOK。見出し・前振りで入口を用意します。
弱点の補完
不足しているレイヤー(画/数字/ストーリー/時流)を意図的に追加し、厚みを完成させます。
こうして、ただのアイデアを厚みのある企画へと組み替えていきます。