毎日を生きるって、こんなにも苦しいことだったろうか。
誰にも見えないところで、呼吸を潜めるように、今日をやり過ごす。
誰かに言えればいいのに、「しんどい」と打ち明けた途端に、自分が脆くなってしまう気がして、また何でもない顔をしてしまう。
そんな日々の連なりを、“生きづらさ”という言葉でしかくくれないことがある。
私自身、占い師という立場にありながら、時折、この“名のない痛み”に胸をしめつけられる瞬間がある。
そしてそれは、相談に訪れる方々の声にも、たびたびひそやかに現れる。
「どうして私だけうまくいかないんだろう」
「居場所がない気がしてしまう」
「がんばっているのに、空回りしてしまう」
生きづらさは、悲しみの中だけにあるとは限らない。
ふとした日常のなか、コンビニのレジ、職場の雑談、家族とのやりとり。
どこにいても、どんな小さな場面でも、「ここに私がいてもいいのか?」という問いが湧き上がる。
それは、まるで世界から浮いてしまったかのような感覚だ。
そんなとき、私はよく一枚のカードを思い出す。
それは、タロットの大アルカナ「世界」のカード。
完成、到達、調和、統合…。
「世界」は、一つの旅の終わりであり、始まりでもある。
全てがうまくいっている時に現れるカードだと思われがちだけれど、私は少し違う見方をしている。
このカードの中心にいる人物は、裸で踊っている。
何も隠すものがなく、何も持たないまま、自分自身で在るという強さ。
でもその裏には、旅の始まりからずっと続いた「道のり」があるのだ。
生きづらさを感じているときこそ、「世界」は大切なメッセージを秘めている。
誰かと同じではない、不器用な歩みでも、あなたがあなたとしてここにいることが、すでに“完結”の中にあるということ。
それが、タロットが語りかけるやさしさのひとつだと思っている。
誰かと自分を比べてしまうのは、自然なことだ。
SNSの投稿、街ですれ違う人たち、身近な誰かの何気ない言葉。
どんなに自分を整えたつもりでも、「あの人の方が上手に生きているように見える」と、胸の奥がざわつくことがある。
そして、そんな風に感じてしまう自分をまた、責めてしまったりもする。
「何でこんなことで嫉妬してるんだろう」
「私って小さいな」「醜いな」
そんな自己嫌悪のスパイラルが、生きづらさをより深いものにしていく。
この“比べてしまう心”を象徴するカードとして、私が思い浮かべるのは「悪魔」のカードだ。
このカードは、依存・執着・誘惑…そうした感情に縛られる様子を描いている。
鎖でつながれた人物たちは、じつは自分でその鎖を外せることに気づいていない。
つまり、悪魔は「現実」ではなく、「幻想」なのだ。
誰かと比べて劣っていると思ってしまうこと。
それは、“そう見えてしまう”ように仕組まれたこの時代の罠かもしれない。
上手くやれているように見える人も、きっとどこかで、誰にも見せない不安を抱えている。
「みんな完璧に見える」
でも本当は、みんな、それぞれの不完全さを抱えながら、それでも今日を選んで生きているだけなのかもしれない。
タロットの「悪魔」は、“恐れ”そのものではない。
恐れを拡張し、あたかも「それが真実」であるかのように思わせる“錯覚”なのだ。
けれど、カードは必ずしもそれを「悪」として断罪していない。
むしろ、気づくこと、そして受け入れること――それこそが、“鎖”を外す鍵になる。
あなたが誰かと比べてしまうのは、心が繊細で、優しいから。
そして、自分をより良くしたいという願いがあるから。
けれど、その優しさが、時に自分自身を締め付けてしまう。
そのことに、どうか罪悪感を抱かないでほしい。
「比べること」を否定しなくてもいい。
その感情に、そっと手を添えて、「今、私の心はそう思ってるんだな」とただ見つめるだけでいい。
それだけで、鎖は少しずつ緩んでいく。
誰にでも、忘れられない「ある日」がある。
あの日を境に、自分の心にヒビが入った気がする――
そんな出来事が、人生には突然訪れることがある。
それは、いきなり誰かに裏切られた日かもしれないし、努力がまったく報われなかった瞬間かもしれない。
あるいは、大切な人との別れや、言葉にならない寂しさに襲われた瞬間だったかもしれない。
タロットの中で、そのような「崩壊」や「突然の喪失」を象徴するのが、「塔(タワー)」のカード。
このカードは、稲妻が高くそびえた塔を打ち砕き、人々が落下していく、非常に衝撃的なイメージを持っている。
しかし、私はこのカードを“絶望”ではなく“目覚め”のカードだと捉えている。
塔は、「こうあるべき」「こうでなくてはならない」と積み上げてきた価値観や幻想を、一瞬で崩す。
だからこそ、苦しい。
けれど、その“崩れる”ということは、あなたが「もうそれでは生きていけない」と、深層で気づいた証でもあるのだ。
私のもとを訪れる方のなかには、この塔の瞬間を過去に経験している方が多い。
そして、誰もが「何かが壊れたあと、自分が空っぽになったように感じた」とおっしゃる。
でも、その空白の中には、実は“これから入ってくるもの”のための余白が生まれている。
塔が崩れることで、見えなかった空が見えるようになる。
それまで塞がれていた“心の窓”が、風通しを取り戻すのだ。
過去の痛みは、今も確かにそこにある。
でも、それがあなたの価値を決めるわけではない。
崩れたあとの瓦礫の中に、再構築されるあなたの人生の“基礎”が眠っている。
だからこそ、過去にどんなことがあったとしても、あなたは生きていていい。
傷があるからこそ、その人にしか奏でられない音色がある。
その音は、誰かを救うかもしれないし、未来の自分を照らす光になるかもしれない。
心が折れたことがある人は、その痛みを知っている。
だからこそ、やさしくなれる。
そのやさしさは、どうかあなた自身にも向けてあげてほしい。
すべてが壊れてしまったあと。
立ち上がる力さえ湧かないまま、ただ空を見上げるしかなかった夜。
そんな時間を、あなたも過ごしたことがあるかもしれません。
心にぽっかり穴が空いたとき、言葉は届きません。
慰めも励ましも、通り抜けていってしまう。
そんなときに私がよく思い出すのが、タロットの「星(スター)」のカードです。
星は、塔のカードの次に続く一枚。
つまり、「すべてが崩れたあと」に訪れるのが、この“星の瞬間”なのです。
星のカードには、静かに水を注ぐ女性の姿が描かれています。
彼女は裸で、何も身につけていません。
傷ついたあとも、何も隠さず、ただありのままの自分で、命の水を静かに注ぎ続けている。
それは「生きよう」とする行為そのものなのだと、私は感じています。
星は、大きな変化を起こすカードではありません。
奇跡を一晩で起こすような派手なカードでもありません。
だけど、遠くでそっと輝くその光は、たとえ今すぐに道が見えなくても、「必ず朝が来る」と教えてくれる存在です。
星が見えるのは、夜だけです。
つまり、暗闇に包まれている時こそ、見上げればそこに光はある。
あなたがどれだけ遠くにいると感じていても、必ず誰かは、あなたの存在に気づいています。
もしかしたらまだ、出会っていないだけ。
もしかしたら、明日届く小さな優しさが、その人の手から届けられるかもしれません。
今、誰にも理解されないと感じていたとしても、あなたのその感覚は、決して間違っていません。
ただ、世界は少し不器用なだけ。
優しさが届くまでに時間がかかることもあります。
けれど、それでも、信じてほしい。
あなたがこの世界にいることが、どこかの誰かの希望になっているということを。
「星」は、私にとってそんなメッセージを届けてくれるカードです。
夜の深さは、星の光の美しさを教えてくれる。
今がどれほど静かで冷たい夜でも、きっとその空の向こうには、あなたを照らす光があるのです。
人生をやり直すことなんてできない。
そんな風に、誰かに言われたことがあるかもしれません。
「もう若くないから」
「失敗した過去があるから」
「このまま我慢して生きていくしかないから」
そのどれもが、現実的な言葉に聞こえるかもしれません。
でも、タロットは違う視点を与えてくれます。
最後にご紹介したいのは、「愚者(The Fool)」のカードです。
愚者は、番号が0のカード。
始まりであり、終わりでもあり、そして“どこにも属さない存在”。
大きな荷物も背負っていない、地図も持たずに旅立つ姿が描かれています。
崖のようなところを、白い犬とともに歩いている姿は、ともすれば無謀に見えるかもしれません。
けれど彼は、恐れずに、ただ「今」を生きようとしている。
過去を抱えたままでも、前に進んでいい。
間違ったことがあったとしても、それがあなたをダメにするわけではありません。
愚者は、すべてを学び、すべてを捨てて、それでもなお“自分という存在”を信じて、風の中へ踏み出していきます。
生きづらさとは、きっと、“正しさ”の物差しで測ろうとしたときに生まれるもの。
誰かと同じ道を歩めないこと。
社会の期待に応えられないこと。
でも、それはあなたが間違っている証拠ではありません。
あなたは、あなたのままでいい。
どんなに回り道をしても、どれほど立ち止まっても、あなたの歩みが「あなたらしい人生」を形づくっていくのです。
この「しあわせの羽音」という場所が、そうした声をそっと受け止める“羽根のような空間”であれたらと、私は願っています。
声にならない叫び。
うまく言えなかった言葉。
泣いてしまいたい夜。
そうしたひとつひとつが、誰かの心の中に、小さな羽音として届いてくれるように。
あなたが自分自身と仲直りする、その一歩に寄り添えるように。
私の言葉や想いが、その風の中に紛れ込んで、そっと背中を押せたなら。
それ以上の幸せはありません。
あなたが、ここにいてくれて、ありがとう。
今日もどうか、心やすらかな夜を迎えられますように。
※「しあわせの羽音」では、毎月新しいテーマで、あなたの心にそっと語りかけるようなブログを綴っていきます。
次回も、どうぞ楽しみにしていてくださいね。