“ケチベラ”と“膨らまし粉”──母の台所と言葉の記憶

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「母の言葉遣い」と言うと、「庶民的」とか「丁寧」とか、どこか控えめで温かいイメージを抱くかもしれません。
でも、私の母の場合はちょっと違います。なんとも“母らしい”、時にクスッと笑ってしまうような、ユニークな表現がいくつもあるのです。

今日はそんな「母語録」から、いくつかをご紹介します。

◆ 膨らまし粉(ふくらましこ)

お菓子作りに使う「重曹」や「ベーキングパウダー」のこと。
子どもの頃、母が「膨らまし粉入れた?」と言うたびに、私はそれを完全な造語だと思っていました。

けれど調べてみると、「膨らし粉」「膨らまし粉」は、実際に日本語として存在する言葉でした。
かつて「ベーキングパウダー」という言葉が一般的でなかった時代、家庭では「膨張剤」全般をこう呼んでいたようです。

さらに面白いのは、「膨らまし」という言い回し。
これは母が生まれ育った北海道の言語感覚によるものかもしれません。北海道弁には、「言わさる(=言ってしまう)」のような受け身的・結果的な言い回しがよくあります。
だから「膨らむ」ではなく、「膨らまさる(=ふくらんでしまう)」→「膨らまし粉」となったのでは?と想像しています。

◆ ケチベラ

これは「ゴムベラ(スパチュラ)」のこと。
母が「それ、ケチベラで取って」と言うたびに、私はてっきり「ケチくさく、残さずきれいに取るからだ」と思っていました。なんとも恥ずかしい表現で、外では使えないなと感じていたくらいです。

でも、なんと「ケチベラ」はれっきとした名前だったのです!

しかも「ケチ」は「ケチくさい」ではなく、ヨットの帆の形=“ketch(ケッチ)”に由来するというのです。ゴムベラの独特な曲線が、ケッチの帆に似ていることから名付けられたのだとか。

あの形は、器のどんなカーブにも寄り添って、やさしくすくい取ってくれます。まさに、名前からしてポジティブな道具だったのですね。

◆ どらいやき

……これは母のオリジナル造語でした(笑)。

「どら焼き」のことを、母はなぜか「ドライ焼き」と呼ぶのです。
でも、どら焼きって、しっとりしていて美味しいのが良さなのに、「ドライ焼き」って、どこかパリッと乾いていそうな響き。謎です。

たぶん「どら焼き」が4文字で言いにくく、「どらい焼き」と語呂を調整しただけなのかもしれません。
でも、言われた側としては、いまだにその響きが忘れられず、つい笑ってしまいます。

◆ 言葉の背景には、時代と地域がある

最後の「どらいやき」の印象が強すぎて、「膨らまし粉」や「ケチベラ」も母の造語だと思い込んでいました。
けれど、調べてみればそれらは、時代背景や地域性のなかで自然に生まれた言葉だったとわかります。

つまり、母の「言葉遣い」は、母だけのものではなく、その世代や土地ならではの表現だったのですね。

◆ お菓子を作るということ

「膨らまし粉」も「ケチベラ」も、どちらもお菓子作りに欠かせない道具。
そして「どら焼き」も、ふんわりと膨らんだ、甘いお菓子です。

今日はひなまつり。
ひなあられや甘いお菓子を用意しているご家庭も多いことでしょう。

お菓子といっしょに、そんな「ことば」も受け継がれていくと、きっと心もふんわり温かくなる気がします。

▼ひとことメモ
もしあなたのご家庭にも、「うちの母がよく使っていた不思議な言葉」があれば、ぜひ思い出してみてください。
暮らしのなかの“ことば”には、地域と時代、そして親の思い出が詰まっています。




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