私は何もできない出来損ないだ。運動も勉強もできない。仕事もできない。要領が悪いし、長所という長所が見当たらない。
何をするとしても失敗してばっかりでその度なんでこんなこともできないんだと怒られる。上司が先方に頭を下げている。自己嫌悪に陥って自信がなくなって、またミスを繰り返す。そんな自分が嫌で私は休みを取って教会にいた。
なぜ教会にいるのかは私にもわからない。なにも考えずに歩いたらもう廃れている教会に着いたのだ。恐る恐る中に入ってみると存外綺麗である。
陽の光に当てられて、青いステンドグラスが光を放って神秘的のような景色が視界いっぱいに広がっている。
急にガタンっと音がする。人の気配がして、私は即座に後ろを振り向く。そこには誰もいなかった。
少しホッとして前を向きなおす。そこには先ほどいなかったはずの人がいた。女の人だ。
白銀の透き通るようにキラキラ輝くストレートの長髪。陶器のような白い肌。大人っぽく、顔の整った顔。ローズグレーのような瞳がキラキラと輝き、長く綺麗な睫毛で神秘的に感じる。耳には大ぶりで銀色の刺繍ピアスをつけている。大学生が着てそうな少し露出しているストリート系を着ている。
私はそんな彼女に見惚れた。時が止まったような感じがした。息もできなくなるようなそんなミステリアスで彼女は私を魅了した。
「あんた誰?」
大人っぽいハスキーボイス。警戒しているのがわかる。怪訝そうな目で私をにらんでいるように見つめる。私はおどおどと目を泳がせながら口を開いた。
「あの、えっと私は……」
「おどおどしないでくれる?そういうタイプが一番イラつくの」
「私は白百合 優紀……です」
「あっそ」
興味が失せたようにそっぽを向く彼女を見て何かやらかしたのではないだろうかと不安になる。
ふと疑問に思ったことがあった。彼女はどうやって私の目の前に現れたのだろう。物音が聞こえたのは後ろからだ。でも後ろにはいなかった。私が前を向いたとき彼女は目の前にいた。もしかしたら幽霊なのかもしれない。でもこんなきれいな幽霊がいるなら怖くないと思った。
「あの!」
「なに?」
めんどくさそうに彼女は返事をした。私にとって大きな勇気を振り絞って彼女に尋ねた。
「あなたは幽霊なんですか?」
「半分正解半分不正解」
どういう意味なのだろう。でも人間ではないということがわかった。幽霊ではないということは一体何者なのだろう。
「一体何者なんだろうって顔してるね。そんなに知りたい?」
正直、彼女の問いに少し戸惑った。どう返せばいいものだろうか。彼女を知りたいという気持ちが強い。でもそれは知っていいものなのだろうか。それでもやはり知りたい気持ちが強くて、知りたいですと勝手に口が動いた。
「私は一応神なんだよ。たまに人間の姿になってここに来る。」
「神様、ですか?」
「うん。簡単に言うと私にも人間だった頃があって不幸中の幸いというかここで死んで幽霊から昇格したら神になった。」
ただそれだけと言ってステンドグラスの方を眩しそうに見る。懐かしそうに目を細めて何かを考えている。
「優紀はなんでここにいるんだ?」
「なんとなく歩いてたらここにたどり着いて」
「ここは選ばれた人しか入れないんだ」
私が選ばれた人ってことなのだろうか。無表情に淡々と彼女。私はこんな人になりたかったのかもしれない。
「まぁせっかくだし一つなにか願いを叶えてやるよ。何がいい?」
「願い……」
「なにかないのか?金持ちになりたいだとか」
願いを改めて考えると難しい。なんでもできる人間になりたいとか?いや私は彼女みたいになりたいとか?いやなにかもっと違う気がする。
「私は、人のために生きたい」
「おすすめはしない」
きっぱりと言われる。お前には無理だと言わんばかりに否定される。人のために生きることの何がいけないのかがわからない。
「人のために生きるということは自分より他人を優先することと同義。つまり相手を助けるためには自分の命も惜しまないということだ。せっかく優紀と出会ったんだからそんな辛い思いはしてほしくないと思う」
初めてそんなことを言われた気がした。今までで一番心に響いたような気がする。心の中で今まで感じたことない感情が溢れ出てくる。
「他になにかないのか?」
「じゃああなたと友達になりたい」
「それだけか?」
「はい」
不可解なものを見るような目で私を真っ直ぐ見つめてくる。それは何故かとても心地がいいものだった。
ため息をつき、彼女は教壇から降りた。私の前まで歩いてきた。
「手を出せ」
言われるがまま手を差し出す。私の手のひらに彼女の手のひらが重なり合って、光を放つ。
「我が名は知弦、時を司る者 爾の名は優紀 この者の願いを叶えたまえ」
手のひらから全身に光を纏う。体験したことのないことが起き、言葉が出ない。眩しくなり目を瞑る。
「優紀、私は待っている。そのまま頑張って生きていろ」
光とともに彼女の声が頭に残るように響いて消えていった……。