民話シリーズ6 東北地方の民話 福島編 東日本大震災から15年
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「白き影、二つの時代の少年」
Ⅰ 会津の山に残る影
福島の会津には、むかし白虎隊という若い武士たちがいた。
戊辰戦争のさなか、十六、十七の少年たちが、
国のため、家族のためと信じて戦い、
飯盛山で自ら命を絶った。
その中に、篠田恭之助(しのだ きょうのすけ)という少年がいた。
仲間を守るため、最後まで踏みとどまり、
城下の炎を見つめながら、
静かに刀を胸に当てた。
「……会津は、守られたのだろうか……」
その問いを胸に抱いたまま、
恭之助の魂は百五十年の時を越え、
今もなお山に留まっていた。
Ⅱ 現代の少年、斎藤亮
2026年の春。
埼玉県の復興公営住宅で暮らす高校生、斎藤亮(りょう)は、
胸の奥に消えない痛みを抱えていた。
亮の故郷は、福島県双葉郡。
2011年の原発事故で避難を余儀なくされ、
家も、友達も、
すべてが突然奪われた。
「俺たち、何も悪いことしてないのに……
なんで、こんな目にあうんだよ……」
亮は怒りと虚しさを抱えたまま、
高校卒業を目前にしていた。
そんなある日、学校の進路学習の一環としての歴史探訪で、
亮は会津若松を訪れることになった。
卒業前の最後の校外学習だった。
白虎隊記念館の展示を見て、
胸の奥がざわついた。
「……俺たちと同じじゃないか……
時代が違うだけで、若い奴らが犠牲になるなんて……」
その夜、亮は一人で飯盛山に登った。
Ⅲ 白き影との邂逅
風が吹き、木々が揺れ、
どこか遠くから白い影が現れた。
それは、白虎隊の少年――篠田恭之助だった。
「……おまえは、泣いているのか」
亮は驚きながらも、
胸の奥の言葉があふれ出た。
「俺たちは……故郷を奪われたんだ。
何も悪いことしてないのに……
大人たちの都合で……」
恭之助は静かにうなずいた。
「我らも同じだ。
国のためと言われ、戦に駆り出され、
守るべき家族を残して逝った。
だが……」
恭之助は亮の目を見つめた。
「おまえたちは、生きている。
生きて、語ることができる。
それは、我らにはできなかったことだ」
亮は拳を握った。
「でも……俺たちの声なんて、誰も聞かない……
避難者のことなんて、もう忘れられてる……」
恭之助は首を振った。
「忘れられぬよう、語るのだ。
おまえたちの痛みを、怒りを、願いを。
生きている者にしかできぬことがある。
我らのように、死をもって訴える必要はない」
風が吹き、恭之助の姿が薄れていく。
「亮よ。
おまえたちの未来は、まだ続いている。
その未来を守るために、
声を上げよ。歩め。
それが……我ら白虎隊の願いでもある」
亮は涙を流しながら、
深く頭を下げた。
Ⅳ 未来への祈り
翌朝、亮は飯盛山の石段をゆっくり降りた。
胸の奥に、確かな言葉が残っていた。
「……俺は、生きて語る。
故郷を失った痛みも、
未来を守るための声に変えていく……」
その決意は、
百五十年前に散った白虎隊の魂と、
震災で故郷を奪われた若者の魂が、
静かに重なり合った瞬間だった。
会津では今も語られている。
「若者の涙は、時代を越えて響く。
その声を無視する国は、また同じ悲劇を繰り返す」
──おわり