《その声は、彼の肩越しに聞こえた》
それは大学三年の春だった。
桜が散り始めた午後、友人のミナトから久しぶりに連絡があった。
「誰にも言えない話がある」と。
話を聞けば、長年片想いしていた女性に彼氏ができたらしく、
その瞬間、自分でも信じられないほど落ち込んでしまったという。
「もう諦めたほうがいいよな、やっぱり」
彼は笑いながら言ったが、その声の奥には
“言葉にできない涙”のような、奥深いざらつきがあった。
──その瞬間だった。
彼の右肩のうしろに、誰かの“視線”を感じた。
振り返っても誰もいない。
けれど、僕の霊視には確かに“ある女性の姿”が映っていた。
小柄で、やわらかい雰囲気。
でも目元だけはどこか寂しそうで、強い決意を感じさせる。
ミナトのことを、懐かしそうに見つめていた。
「……それ、今の彼女じゃない」
思わず口に出た。
ミナトは驚いたように目を見開いた。
僕は、ふいに“言葉”が降ってくるのを感じた。
「出会うのは、もうすぐだ。
彼が自分で手放そうとしていた未来の中にいる」
「たぶん、お前が“本当に愛する人”はまだ現れてない。
でも、魂はもう気づいてる。
その人もお前のことを、どこかで覚えてるよ」
ミナトは黙っていた。
でもしばらくして、ふっと笑った。
「……そうか、だったらもう少し、信じてみようかな」
その半年後。
彼は、偶然のようなかたちで今の奥さんと出会った。
そして付き合い始めたとき、
彼女はミナトにこう言ったそうだ。
「初めて会った気がしなかった。
むしろ“おかえり”って言いたくなるような気持ちだったの」
結婚式の日、僕はスピーチを頼まれた。
でもそれよりも印象的だったのは、
式の終わりにミナトがこっそり言ってくれた言葉だ。
「カナタ、お前が言った通りだったよ。
あのときの“誰かの視線”、今なら俺にもわかる気がする。
あれ、未来から来てたんだな。俺たちの魂、知ってたんだな」
その日、僕は初めて知った。
霊視とは、ただ“死者と話す力”じゃない。
生きている人の中にある、まだ出会っていない“愛の予感”を、
未来から逆流してくるように感じ取るものなんだと。
ハルカが遺してくれたこの力は、
きっとそういう風に、これからも誰かの恋を照らしていくんだと思う。