春の雨が、灰色の空をゆっくり流していた日のことだ。
大学の後輩であるユキが、久しぶりに僕を訪ねてきた。
「カナタ先輩…もう、誰の言葉を信じたらいいのかわかりません…」
彼女は、座るなり涙をにじませながらそう言った。
数ヶ月前から“占い依存”になっていた彼女は、恋や進路、家族のことすべてを“当たると言われる人”に頼り切っていた。
バイト代はいつの間にか消えていき、毎晩スマホの光の中で答えを探すことが日常になっていたという。
「このままじゃ、自分が自分じゃなくなっていく気がして…でも不安で、やめられないんです」
僕は、彼女の向かいに静かに座り、目を閉じた。
霊視の中で、彼女の“魂の奥”に触れる。
彼女の中には、はっきりとした“孤独”があった。
その孤独は、誰かに「決めてほしい」「導いてほしい」という願いとなって、他人の言葉に依存する形で膨らんでいた。
――でも、僕にはわかっていた。
彼女の中には、もっと深い“信じる力”がちゃんと眠っていた。
「ユキ。君が他人の言葉に頼りすぎてしまうのは、自分の声が怖くなってしまっているからだ。
でも、本当は…その声をもう一度、思い出せるよ」
僕の中で、ふと風が吹いたように“彼女”の気配を感じた。
そう。遥(ハルカ)だ。
高校時代、誰よりも繊細に“人の想い”を感じ取れてしまったあの少女。
その感受性の深さゆえに、心を壊し、静かにこの世を去った僕の恋人――遥。
彼女が亡くなってから、僕の中で“霊視”が始まった。
まるで、彼女が僕の中で生き直しているかのように。
僕はユキにそっと語りかけた。
「“外の誰か”じゃなくて、“本当の自分”の声に立ち返ること。
それが、君の魂をまっすぐに戻す道なんだ」
ユキの目が潤んだまま、まっすぐ僕を見た。
「…こわい。でも、私、自分で選んでみたい」
「うん。それができたら、もう君は“依存”じゃなく、“選択”の中に生きていける。遥も…きっとそう願ってる」
その瞬間、部屋の空気がふっと柔らかく揺れた。
まるで、遥がそっと微笑んだかのように。
彼女がこの世を去っても、僕の霊視は、今も彼女と共にある。
未来を視るためじゃない。
迷子になった魂が、もう一度“自分”と出会うために。