遥(ハルカ)がこの世を去ったあの日、
僕の時間は止まったままだった。
高校三年の冬。
進路のことなんて、どうでもよかった。
友達の会話は遠くの雑音みたいで、
笑っている自分すらどこか嘘っぽくて。
教室の窓から見える曇天に、
彼女の面影を重ねては、静かに目を伏せる毎日だった。
「どうして自分じゃなく、彼女だったんだろう」
何度も、何度も、問い続けた。
彼女は“人の気持ちが見える”なんて言ってた。
見えすぎて苦しかったんだって。
僕には、その痛みの深さも、救えなかった自分も、
ずっと心の中で腐らせていた。
大学に入ってからも、その痛みは変わらなかった。
静かな講義室、キャンパスの木漏れ日、誰かが笑う声。
そのすべてに“ハルカだったら”という想像が入り込んで、
目の前の現実を、生きているようで生きられなかった。
誰かを好きになることも怖かった。
ふいに視線が重なると、ハルカが見ていた景色を思い出してしまう。
もういないのに、彼女の気配はずっと僕の中にいた。
夜になると、布団の中で彼女が言っていた言葉を思い出す。
「カナタくん、私、いつかきっと消えちゃう気がするの。だけどね、全部じゃない。たぶん、どこかに残るから」
……その“どこか”が、僕だったんだ。
何も見えなかったはずの僕の中で、
彼女の死後、ふいに“気配”が立ち上がる瞬間が増えていった。
誰かとすれ違った瞬間に流れ込んでくる感情。
見えないはずの誰かが、こちらをじっと見ている気配。
それは、遥がかつて言っていた“視える感覚”と、同じだった。
大学二年の春、僕は気づいた。
彼女の力は、確かに僕の中で生きている。
彼女の痛みも、祈りも、光も――すべてが、僕という器に受け継がれている。
遥を失ったことで僕は生き直しを迫られ、
その“生き直し”の中で、彼女と再び出会ったのかもしれない。
だから今、僕は視る。
恋に傷ついた人の魂。
まだ出会っていない、誰かを探している心の声。
あのときの僕のように、誰かを失ったまま立ち尽くす人に、
遥の残してくれた“光”を届けるために――