試練の兆し
週末、彩乃はいつもより少し早く起きた。
尚人とのカフェでの約束。期待と不安が入り混じるこの日を、彼女は何度も頭の中でシミュレーションしていた。鏡の前で服を選びながら、ふと胸の奥にざわつく感覚が広がる。
「大丈夫。気にしすぎるのはよくないよね……。」
そう自分に言い聞かせながらも、タロットの『塔』のカードのことが頭をよぎる。
何かが起こるかもしれない。
それでも、彩乃はこの時間を大切にしたかった。彼との距離を縮めるために——。
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カフェでの再会
約束の時間の10分前、彩乃はすでにカフェに到着していた。木の温もりを感じる落ち着いた空間。いつもならホッとするはずなのに、今日は心がそわそわしていた。
「待たせちゃった?」
少し遅れて尚人が現れた。グレーのジャケットにシンプルなシャツ、どこか知的で洗練された雰囲気。そんな姿を見て、彩乃の胸は自然と高鳴る。
「ううん、私が早く来ただけ。」
軽く微笑みながらそう答える。彼が向かいの席に座ると、店内の心地よいBGMがゆっくりと流れた。
「いい雰囲気のカフェだね。彩乃さんのおすすめだけあって、落ち着く。」
「気に入ってもらえてよかった。」
最初は仕事の話や他愛もない日常のことを話していた。しかし、しばらくして彩乃は、尚人の視線が何度か店の入り口の方に向かっているのに気づいた。
「誰か知り合いでもいた?」
何気なく尋ねると、彼は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに表情を戻した。
「いや……ちょっと気のせいかも。」
曖昧な返事。
ほんの一瞬のことだったが、彩乃の胸の奥に小さな違和感が広がる。
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予期せぬ影
カフェを出た後、尚人と並んで歩く彩乃は、ようやく肩の力が抜け始めていた。楽しい時間を過ごせた。それだけで十分だと思っていた。
しかし、その帰り道。
「尚人?」
突然、背後から女性の声が聞こえた。
振り返ると、そこには美しい女性が立っていた。モデルのような長い髪に、洗練された雰囲気。彩乃は息をのんだ。
「久しぶり。まさかこんなところで会うなんて。」
尚人の表情が一瞬、硬くなる。
「……本当に偶然だね。」
短い言葉だったが、その声には何か含みがあった。彩乃は、そのやりとりをただ黙って見つめるしかなかった。
この女性は誰?
そして、なぜ尚人はこんなに動揺しているの?
彩乃の胸の中で、得体の知れない不安が渦巻いていく。
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占い師としての直感
その日の夜、彩乃からの連絡があった。
「先生……やっぱり、試練が来たみたいです。」
私は静かに頷いた。
「落ち着いて、状況を整理してみましょう。何が起こったのか、順を追って話してもらえますか?」
彼女の声は少し震えていた。
「カフェの後、突然彼が知り合いの女性とばったり会ったんです。でも、彼の態度がすごく変で……。」
「なるほど。」
私はゆっくりと彼女の話を聞きながら、カードを切った。
『月』のカードが現れる。
「これは……?」
「『月』は、曖昧さや隠されたものを意味します。つまり、まだ全てが明らかになったわけではないということです。」
彩乃は息をのんだ。
「じゃあ……彼は何か隠してるってことですか?」
「決めつけるのはまだ早いですよ。」
私は慎重に言葉を選びながら続ける。
「大切なのは、あなた自身の気持ちです。この状況をどう受け止めたいのか、そして、どう進みたいのか。」
「……私は……。」
彩乃の声が揺れる。迷いと不安が入り混じったその気持ちが、痛いほど伝わってきた。
「焦らずにいきましょう。真実は、必ず見えてきます。次に何をするか、一緒に考えていきましょう。」
私は優しく言った。
その言葉に、彼女は少しだけ呼吸を落ち着かせたようだった。
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【次回予告】
尚人の過去に何があるのか?
彩乃の不安はやがて確信へと変わっていく。そして、私の占いが示す次の一手とは——。
次回、第4部でその真相が明らかになります。