今回は、具体例で考える業務システム導入・構築の選択肢の話です。
業務で使うデジタルツールを導入したり構築するときには次のように色々な選択肢がありますよね。
・Googleスプレッドシートのような表計算ソフトウェアで作る
・スプレッドシートとGoogle Apps Script(GAS) を組み合わせる
・App Sheet のようなノーコードツールで作る
・Webアプリを作る
・ネット上で提供されているウェブサービス(SaaS)を使う
※ GASというのはGoogle Apps Scriptというプログラミング言語の頭文字です。GASでプログラムを作ることでGoogleの様々なアプリ(スプレッドシート、ドキュメント、Gmail、カレンダーなど)を操作し効率化・自動化が行えます。
※ AppSheetというのは「業務アプリを作るためのアプリ」です。ノーコードツール、つまりプログラミングすることなく業務アプリを作ることがでるツールです。スプレッドシートなどをデータベース(データをコンピュータが処理しやすいような形で保存しておくところ)として利用できます。
そして例えば、会計処理、給与計算、備品管理、日報など、業務で扱うデータは多岐に渡ります。
一つのシステムだけでは普通は完結しません。
ここでは、例として小規模な介護事業所を想定し、どのように組み合わせるのが良いのか、落とし所を考えてみることにします。
このような事業所では、ITの知識を持ったスタッフがほとんどいないとか、開発を頼む場合でも要望を正確に細かいところまで説明することができないことが多いのが実情ですね。
また、予算もかなり限られてしまうことが多いといえます。
そして、法令対応が必須といった業種特有の事情もあります。
各選択肢のメリット・デメリットは?
まず、それぞれの選択肢について簡単に見ておくことにしましょう。
1. ネット上で提供されているウェブサービス(SaaS)
これは既製品の購入ですね。
介護業界用では、最近は小規模事業所に特化した低額のサービスや従量課金制(使った分だけ)のサービスも増えています。
メリット: 安定、保守不要、すぐ使える、プロが作った画面で使いやすく、法改正(インボイス等)にも自動対応。
デメリット: カスタマイズ不可、業務に合わないことも、業務をソフト側に合わせる必要がある。月額費用がずっとかかる。
向いているのは: 汎用業務(会計、勤怠、在庫など)、一般的なやり方でいいから、すぐに安く始めたい人。
2. スプレッドシート+GAS
これは手書きの帳簿をデジタル化することに例えられますね。
例: Googleスプレッドシート + GASによる自動化
メリット: 即導入、柔軟、費用が安い、慣れ親しんだ操作感。GASを使えば通知や自動計算も可能。
デメリット: 複雑化すると破綻、入力ミスが起きやすい、複数人で同時に使うと競合してデータが壊れやすい。属人化しがち。
向いているのは: 単純作業、小・中規模の業務効率化。予算はほぼゼロで済む。今の作業の延長で少し楽をしたい人。
3. ノーコードツール
レゴブロックで組み立てるという感じでしょうか。
例: AppSheetやkintoneなど
メリット: 操作画面が作りやすい。スマホで使いやすく、データの整理(データベース化)がしっかりできる。
デメリット: ツール自体の制約があり、凝ったデザインや複雑すぎる計算は苦手。
向いているのは: 現場(外回りなど)でスマホから入力したい、データを集計して活用したい人。
4. Webアプリ開発
これは注文住宅の建築ですね。
例:ちょっと乱暴な言い方をすると、インターネットでアクセスできるウェブサイトは基本的に全部Webアプリと思って構いません。
つまり、業務に必要な機能を持つウェブサイトとして業務アプリをインターネット上で稼働させます。
メリット: 完全自由、拡張性最大、1から10まで思い通り。独自の強みがある業務に最適。
デメリット: 1から全部作るので開発費が結構掛かる。完成後のメンテナンスが必要な場合は専門知識を持つ人による対応が必要。
向いているのは: 既存のツールではどうしても業務が回らない、独自の機能を作りたい人。
小規模介護事業所の場合で考えてみると
1. 業務内容から考えてみる
会計・介護報酬請求→特化型格安SaaS
スプレッドシート及びGASで作ったものを法改正(3年に1度の報酬改定)に合わせて改修したり、インボイス対応をしていくのはコスト・リスク共に大きいと言えます。ウェブサービス(SaaS)に任せてしまうほうが結局一番安上がりです。
給与計算・勤怠→会計連動型SaaS
介護特有の処遇改善加算などの計算が複雑なため、手計算や自作システムはミスのもとです。
顧客管理・日報→スプレッドシート+GASまたはノーコード (AppSheet等)
「事業所ごとの色」が出る部分かもしれません。
SaaSだと高機能すぎて使いにくいことが多いため、この部分は自作または小規模外注して事業所独自のロジックに合わせた使い方ができるようにするのが良いでしょう。
2. 困りごとで考えてみる
今、何に一番時間を使っているか?」「何が起きたら冷や汗が出るか?」で考えてみます。
例:転記ミスが怖い→ SaaSかノーコードで入力ミス防止。
例:計算に1日かかる→ GASかスプレッドシートで自動計算
3. 使いやすさで考えてみる
「どこで入力する?」、「どこでミスが起きやすい?」、「将来的に自動化の拡張をする?」という観点から考えてみます。
現場で入力することが多い→ノーコード(AppSheet等)
入力ミスを減らしたい→ノーコード(AppSheet等)、スプレッドシート+GAS、Webアプリ
将来的に機能を追加したい→スプレッドシート+GASかWebアプリ
4. スタッフのITスキルで考えてみる
入力が苦手・操作が複雑だと使えない人→ ノーコード or SaaS
多少の操作は慣れれば大丈夫という人 → スプレッドシート+GAS
社内にしっかりとしたIT担当がいる → Webアプリも選択肢に入る
使いやすさは技術よりも重要で、使われないシステムは存在しないのと同じです。
5. 初期費用と保守コストで考えてみる
最安 → スプレッドシート
中くらい → GAS / ノーコード
高いが安定 → SaaS
初期は高いが長期的に安い場合も→ Webアプリ(自社仕様に完全最適化できる)
小規模事業では「初期費用より保守コストの低さ」が重要となるでしょう。
6. 自動化の範囲で考えてみる
スプレッドシート → 小さな自動化
GAS → 中規模の自動化
ノーコード → 操作画面は作りやすいが自動化は制限あり
Webアプリ → ほぼ無制限
SaaS→ 決められた範囲のみ(ただし安定)
7. データの安全性・外部依存で考えてみる
外部に出さず社内で完結したい → Webアプリ(自社サーバー)
外部サービスに預けてもOK→ SaaSまたはスプレッドシート+GASまたはノーコード
機密性が高い業務→ ノーコードやSaaSの場合は利用規約や免責事項、プライバシーポリシーなどよく読んで、アップロードしたデータがどのように扱われるのか確認しましょう。
コストをどのように考えるべきか?
「サービスを落とすこと無く、むしろ上げながら、どのぐらいの経費が削減可能か」
これが業務システムを導入する場合に考えるべきポイントですよね。
大企業であれば、人員削減という殺伐とした話になりかねませんが、小規模事業所では、そういうわけには行かないでしょう。そうことをしてしまうと長い目で見たときに損失が大きくなりかねませんよね。
機械に任せることができることは機械に任せるという基本を大事にして、デジタル化で生み出すことができた時間を、人間でしかできない仕事に当てるべきです。
例えば、毎月5,000円の利用料が掛かるソフトは高いと感じるかもしれません。しかし、例えば今、『手書き→転記』の作業で、あるスタッフが月に4時間掛けているとしたら、仮に時給が1500円だとしても、人件費として6,000円掛かっています。いろいろ厳しい実情もあるはずですが、この6,000円で『ミスがゼロになり、そのスタッフが現場に出られる時間』を買うというように考えることはできないでしょうか?
もちろん、この場合、スタッフを解雇するわけでも勤務時間を短縮するわけでもないので事業所の人件費が浮くわけではありません。ソフト利用のためのコストは新たに発生しますが、時間が生み出されるわけです。
まず「どの業務にどのぐらいスタッフの時間が奪われているか」をもう一度把握してみるのはいかかでしょう。アナログな作業がどのぐらい残っているか見直してみましょう。それらの「時間」を一つ一つ金額に換算してみると、デジタル化の方針が見えてくるかもしれません。以外に把握できていないことが多いのではないでしょうか?
では、小規模介護事業所の場合の現実的で最適な組み合わせは?
費用対効果も考えに入れて、現実的な方針を考えてみると
結局、事業所での業務の内容と流れを徹底的に把握して、ギリギリを狙うということになります。
おそらく、多くの小規模介護事業所ではすでにこれから説明する構成になっているかもしれません。
1. SaaSは「基幹業務だけ」に限定する
介護事業所で SaaS が最も効果を発揮するのは、次のような 法令対応が必須で、更新が頻繁な領域で、ここを削るのはリスクが高いといえます。
・介護請求(レセプト)
・会計(税制改正対応)
・給与計算(社会保険料率の変更)
・勤怠(労基法対応)
これらを自作すると法改正のたびに保守が必要になり開発者へ依頼するコストが発生します。
SaaSの方が長期的に安いです。
しかしコストを下げるために、SaaSは「法令対応が必要な領域」に限定するのが最適。
使い勝手、特に操作画面の使いやすさは作業効率に結構影響します。無料お試しなどを利用して、いくつかのサービスをしっかり比較しましょう。
2. それ以外の現場の細かい業務はスプレッドシート+GASやノーコード
介護事業所には、SaaSではカバーしきれない細かい業務が大量にあります。
・利用者の送迎管理
・職員のシフト調整
・連絡帳・申し送り
・備品管理
・研修記録
・事故報告書
・相談記録
・施設内のチェックリスト
・職員の予定管理
・画像付きの記録(掃除、設備点検など)
これらを全部SaaSで揃えると、 1サービスあたり月3000〜1万円 × 5〜10種類 → 月3〜10万円という世界になっていきます。ちょっと負担が大きいですよね。
ここは スプレッドシート+最低限のGASまたはノーコード(AppSheet)が最も費用対効果が高いです。
・外注しても 小規模機能なら数万円〜十数万円で済む可能性が高いです。
・利用者の状態や行政指導により業務が頻繁に変わりますが、変化に合わせて柔軟に変えられるというメリットがあります。例えば、項目追加、入力欄の変更、自動化の追加が割とすぐできます。
・一方SaaSは柔軟性が低いので、「業務に合わせる」ではなく「業務をSaaSに合わせる」ことになりがちです。
・スマホ入力が多い業務は入力がスムーズにできるようにノーコード(AppSheet等)で作る、またはGASで入力フォームを作るのが良いでしょう。
外注コストを抑えるための“現実的な工夫”
1. 開発者に「小さく作ってもらう」
・まずは最低限の機能だけにしましょう。そして**むやみに複雑なGASプログラムは作らないようにしましょう。
業務の根幹をむやみにGASで固めると、作成者と連絡が取れなくなった場合に業務が止まる恐れがあります。
・使いながら改善していきましょう。
・ノーコードツール(AppSheet)を優先してみましょう。
※ AppSheetはスプレッドシートをデータベースとして使うことができ、入力・閲覧用の使いやすい操作画面(の土台)がスプレッドシートとは別に自動で作成されます。そして開発者がその土台をカスタマイズして使いやすい画面にしていきます。このようにつられる画面なら「入力ミスで計算式が消えた」という初心者特有のトラブルを防げます。開発を依頼する場合も、Webアプリを一から作るより数分の一の工期(費用)で済みます。介護現場ではこの方式が最も成功率が高いかもしれません。
2. 現場スタッフが少しずつ学習して触れる部分を増やす
まず次のようなことができるようになることを目標にしてみましょう。
・スプレッドシートの項目追加
・AppSheetの操作画面での表示設定
・GASの軽微な修正
「全部開発者に依存」から脱却できるので保守コストが激減します。
3. できれば事業所内でIT担当を1人決めておく
専門家である必要はなく、触るのが苦じゃない人ぐらいでも構いません。
上で述べたことをできるようにした上で、開発者の窓口の役割をしてもらえるようになれば、運用も安定するでしょう。
さて、自分の話をここで少し
ところで、多くの介護事業所では、きっと、紙に印刷して配っている書類とかお知らせとか、さらにはそれらを郵送していたりすることもまだまだありますよね。
でも、その書類とかお知らせとか、きっとパソコンで作っているはずです。
最初はデジタルなのですよね。
でも、わざわざ印刷してアナログ化して、郵送という手段を使っている。
なんか、本末転倒な気がしませんか?
デジタルのまま送信できないのでしょうか?
これ、事業所だけで決められることではなく、行政の許可が無いとできないという場合もあると思います。
介護サービスを利用している高齢の本人はデジタルに縁が無いかもしれません。でも、その子どもたちや孫たちはスマホやパソコンを使っていることがほとんどです。
一人暮らしや夫婦だけで暮らしている高齢者に紙に印刷されたお知らせ、連絡ノート、家族宛のレポートとかを持たせたり郵送したりしていますが、子供が同居している場合はともかく、家族が見るのはいつになることやらって事、多そうですね。
連絡ノートや家族への報告をその日のうちに見れると、家族は安心できたり、必要な対応を早く起こすことができます。
私の身内にも一人暮らしの高齢者がいて介護サービスを利用していますが、訪問介護のヘルパーさんからの連絡ノートは紙のノートでした。
身内のみんなも、すぐに見ることができず困っているので、私がWebアプリを作り、連絡ノートをデジタル化しました。(Webアプリの開発はちょっと手間がかかるので、Googleのサービスとか使って、もっと簡単に済ませたかったのですが、ヘルパーさんのGoogleアカウントをどうするのかなどのハードルがありました。結局フロントエンドとバックエンドの開発をしたわけです。でも本当は、事業者側で作っていただけると助かります。)
このシステム、無料のレンタルサーバーで稼働させていて、保守コストも基本的にかかりません。
毎日都合の良いときに見ることができ、様子がその日のうちにわかります。
結構いい感じです。
最後に宣伝です
えーと、ここは「ココナラ」でしたね。ココナラにいくつかスプレッドシートやAppSheet関係のサービスを出品しています。
行き詰まったらぜひご利用ください。よろしくおねがいします。