採用の相談は、たいてい「経験者が欲しい」から始まります。
でも、話を聞いていくと、その奥から別の言葉が出てきます。ある配管工事会社の社長は、こう言いました。
「自分の分身として、打ち合わせ・見積もり・現場管理ができる人が第一希望なんです」
人手が欲しいのではなく、判断を任せられる人が欲しい。この違いに気づくと、求人票の書き方がまるごと変わります。
口にする要望と、その奥の願い
これまで聞いてきた社長たちの言葉を並べてみます。
「経験者が欲しい」の奥には、判断を任せられる分身が欲しい、がありました。
「管理職を増やしたい」の奥には、自分が現場から抜けて、経営に回りたい、がありました。
「女性を採りたい」の奥には、会社の空気を変えたい、がありました。「うちは野郎ばっかりで、幼稚園ですよ」と笑っていた社長もいます。
「ホームページが欲しい」の奥には、施主さんにも応募する人にも、恥ずかしくない看板を持ちたい、がありました。
「事務を楽にしたい」の奥には、夜と週末を返してほしい、家族を事務から解放したい、がありました。
「管理する人を2〜3人に増やして、自分は社内のことに専念したい」と話した社長もいました。採用はそれ自体がゴールではなく、社長が現場から抜けて、会社を経営する側に回るための手段なのだと思います。
「1人採れました」では終わらない
このことに気づいてから、僕は自分の仕事の測り方を変えました。
求人票を作った。応募が来た。1人採れた。どれも途中経過です。本当のゴールは、社長が現場から抜けられる日が来たかどうかです。
だから、求人票だけを書いて終わりにはしていません。求人票を書き直して媒体に出し、来た応募に最初の返事をして、面接の日程が決まるところまでを引き受けます。毎月、どこで止まっているかを数字で見て、次に直す所を一緒に決めます。夜の事務は、LINEで写真を送るだけにして減らします。全部、社長の時間を取り返すための手段です。
打ち合わせでは「秘書みたいなものですか」とよく聞かれます。近いと思います。採用を回す担当者を、社外に1人置く感覚に近いかもしれません。
ただ、面接と、採るかどうかの判断だけは、社長にお願いしています。一緒に働けるかどうかを決めるのは、一緒に働く人であるべきだと思うからです。
「分身」は、外から連れてくることが多い
「分身になる人を、社内で育てればいいのでは」と思うかもしれません。僕も最初はそう思っていました。
でも、ある社長の言葉で考えが変わりました。
「職人は現場での作業は得意なんだけど、打ち合わせや段取りといった管理業務は苦手で。適性には個人差があるんですよ」
現場が好きで職人になった人にとって、管理の仕事が幸せとは限りません。だから多くの会社で、分身の候補は外から採ることになります。
そして、経験のある人や管理を任せられる人ほど、応募の前に会社をよく調べます。どんな現場をやっているのか、社長はどんな人か、任せてもらえる会社なのか。給料をしっかり出すつもりの会社でも、その情報が見えなければ、候補の人は来ません。
分身の候補に向けた求人票は、若手向けとは書くことが変わります。どこまで任せるのか。見積や段取りの判断を、どこから本人に渡すつもりなのか。社長はどんな考えで会社をやっていて、数年後に会社をどうしたいのか。経験のある人ほど、給料と同じくらい、ここを見て決めます。
お金は出せる。手段がないだけ。そういう会社が、たくさんあります。
分身が見つかるまでのあいだ、採用を回す手を外に置いておく。それが、社長が現場から抜けるいちばん近い道だと僕は思っています。
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