申請を引き下げさせる公務員のウルトラC仕事
私は公務員を退職した。
私が暮らす田舎では銀行員か公務員になるくらいしか、地元で働き口がない。
現在では銀行員の魅力が下がりつつあるが、公務員についてはまだ一定の人気があるだろう。
ひと昔前に公務員試験をパスした私は順調に勤務していたが、そのうっ憤は募る一方。
なぜなら、公務員として働くことに苦痛が伴っていたからだ。
特に公務員の業務に付き物である、いわゆる「窓口業務」。
住民が申請書を提出する際に、公務員が窓口で対応してくれるものだ。
今回は、この窓口業務をめぐる行政の哀しき実態に焦点を当てる。
あなたも体よく公務員に扱われていないか?
公務員の業務全般もだが、窓口業務は特に人事評価の対象となりにくい。
・ミスがなくて当たり前
・時間をかけて丁寧にチェックすると「遅い」と評される
など割に合わない業務だ。
自治体の市民課などの窓口メインの課ならばそうでもないが、問題は業務の一部に許認可業務がある部署。
本来業務を進めながら、たまにやってくる申請者への窓口業務をこなさなくてはならない。
そこで効率的な行政運営を行なうために、’優秀’な公務員はとんでもない手を思いつく。
常識的には考えられないが、もしかしたら善良な市民もこの手法の餌食になっているかもしれない。
公務員を退職した私のこと(プロフィール)
田舎の県で地方公務員として、約15年間勤務する。
前職の経歴と風貌から、ハードな部署に回され続ける。
第二子誕生の際、当時の男性では珍しい1年間の育休を取得。
復帰後の納税部門で目覚ましい成果を上げるも、旧態依然の閉鎖的な組織に見切りをつける。
育児をこなしながらも、今後の人生を真剣に考え公務員を退職して独立。
引き継いだ農地で小規模農業を行いつつ、ブロガーとして歩み始める。
問題の本質
公務員の「許認可」業務とは条件を満たした申請者(住民)に対して、新たに権利を認めたり、義務を減免(げんめん)したりすること。
審査時間の長短はあるが、申請者からすると必要条件さえ満たせば認められるもの。
自治体からすると、審査の手間と労力がかかるのでとても面倒な業務だ。
しかし何よりも本当に面倒なのは、条件を満たしていない住民を「不許可」とするとき。
「不許可」処分の面倒さ
申請に対する行政の「不許可」処分は、住民に不利益を与える不利益処分とされる。
加えて行政側は、不許可処分の理由を明らかにしなければならない。
行政手続法により、どんなに条件に満たないヒドイ申請でも、申請を受理して「許可・不許可」の処分を下さなければならない。
そして不許可処分には、申請者である住民の反発も必ず予想される。
この許可をもとに新規商売を始めようとしている個人や法人では、事業計画そのものが破綻する死活問題でもある。
このような反発を避けるために、’優秀’な公務員は恐るべき手を繰り出してくる。
行政で横行する優しそうな恐るべき手法
不許可処分を避けたい行政は、どんな手を打ってくるのだろうか?
怖い脅し文句でも用意しているかと思いきや、一見とても優しそうで親切な手だった。
それは申請者が条件を満たしていないことを丁寧に説明し、その申請を「自ら取り下げさせる」こと。
「あなたは残念ながら、申請が通りそうにありません」と親切な公務員を装いながら、申請取下げ書にサインさせる。
これで申請者自らが申請を取り下げたという事実が残り、行政が不要な不許可処分を下す必要もなくなるのだ。
申請書が提出されると現場の窓口で形式的に漏れがないかチェックしてから受理している。
そのため、審査を行なう本部で申請自体を不受理にはできない。
だからこそ審査本部が「不許可処分」を下し、申請者の反発を覚悟すべきところなのだ。
ちなみに、申請を取り下げた住民が、再度同内容の申請をすることは可能。
しかし、そんな手間をかける人も滅多にいないだろう。
汚れ仕事は現場
自治体の所管本部がよくやる姑息な手は、申請取下げなどの汚れ仕事を現場に丸投げすること。
不許可処分ならば申請を審査する所管本部の業務だが、「受付・取下げ」業務は現場の出先機関に任せられることが多い。
所管本部から、「この方は申請基準を満たしていないので、申請取り下げに伺ってもらえますか?」という無情な指令が下されるのだ。
(こんな指令の手間を考えると、「不許可処分」の方がサクッと終わりそうな気もする)
申請者から「申請を取下げさせられた」などと苦情が出ても、本部は「現場の判断で勝手に行なった」とするのが定石だ。
本部としては、「出先機関への管理不行き届き」の叱責は受けるだろう。
しかし、直接行なったのは「現場の職員」という形で、いざ事が起これば「指示した/しない」の水掛け論が巻き起こる。
そうこうしているうちに、「はっきりしませんでした」の結論で問題はうやむやにされる。
効率重視の手法
今回紹介した手法は、あくまで忙殺されている行政が編み出した手法だ。
実際のところ、不許可でも取下げでも申請者本人の利益は何も変わらない。
だからこそ行政は自らの負担を軽減するため、この取下げ手法を水面下で進めるのだ。
確かに業務負担を減らすことで、代わりに住民により良い行政サービスを提供できるのであれば説得力も増す。
「取下げの事実」が誰の意図なのかは曖昧になるので、明確に法令違反とも言い切れないグレーゾーンな手法かもしれない。
’優秀’な公務員ほこの手法に長けており、これにより幹部への道も開かれるのだろうか。
このような手法は、申請者の利益を侵す行為ではある。
もしかすると敏感な人権派弁護士や法律家からすると「見過ごせない!」問題かもしれない。
行政職員としても、「申請取下げ」を喜んで推し進める職員はいないだろ
手続きだらけのがんじがらめの公務において、誰もが「不許可処分」という貧乏くじに巻き込まれたくないのだ。
一向に進まない公務員の仕事AI化
公務員の業界では国を上げて「業務効率化を!」と叫びながらも、一向に進む気配がないのが実状。
多くの自治体は「AI活用による業務効率化」を施策として掲げ、さらに民間企業にその導入を促す立場にある。
しかし、本丸である自治体における導入が進んでいないという皮肉な状態だ。
そこには、「業務を減らして欲しいけど、減らしすぎると困る」という労働組合の思惑も見え隠れしてている。
公務員の仕事、ここに気を付けて
このような行政によるグレーゾーン手法が浸透してくると、怖いのが「濫用」だ。
審査が通るかどうかの微妙な申請についても、「審査を通らなさそうですね~」などと言いくるめられて、取下げをさせる恐れがある。
住民の中には「自治体職員がそう言うなら」と、あっさり引き下がってしまう方もいるだろう。
そんな場合でも住民として、「取下げを勧めてくる理由」だけはしっかり確認しておくべき。
軽度な修正で申請が通る可能性もあるので、甘い言葉をうのみにしてはダメ。
全国的に非難される生活保護申請
特に全国的に非難のマトになっているのは、生活保護の申請。
生活保護を申請すると自治体職員には、聞き取り調査など多大な業務がのしかかる。
また審査が通り生活保護受給が認められると、生活保護費の膨大につながる。
そこで生活保護受付の窓口では業務負担を減らすため、あの手この手で申請を取り下げさせることに躍起になる職員も見受けられる。
「申請取下げ」という手法もお盛んなようだが、「そもそも申請すらさせない」という高等テクニックが横行しているようだ。
まとめ 公務員の仕事が正しいとは限らない
今回の件は、微妙なグレーゾーンのお話だった。
今現在この手法が悪用されているかは、自治体により濃淡があるだろう。
しかし、今後は行政のマンパワー不足が如実になり、この手法が増えていくことが予想される。
きりきり舞いの職員が、この手法を濫用する危険性は十分に考えられる。
AIによる申請受付システムが整備されれば解決するのだが、日本の行政ではまだまだ先のようだ。
旧態依然のシステムは変革できずに「業務効率化」の名目で、出先機関の現場に汚れ仕事を押し付けている行政。
そこに「公務員のやりがい」というものは、全く存在しない。
はぁー、これは公務員を辞めたくなるわ。