青の教室 陽子 第22話/4月9日 ――芽の気配――
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第22話/4月9日
――芽の気配――
朝の青の教室は、
まだ少し冷たい空気が残っていた。
友彦は、
机を整え、窓を少しだけ開けた。
春の風が、
ゆっくりと教室に入ってくる。
パソコンを開くと、
昨夜遅くに美咲からLINEが届いていた。
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お世話になっています。
陽子の顔つきが少し落ち着いてきているように感じます。
課題表の内容を相談することが増えています。
自分のことを考えられるようになってきた感じはありますが、
でも、まだ家では勉強に向かわないことを心配しています。
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友彦は、
メッセージを何度か読み返した。
(お母さん……
陽子の変化の“前触れ”を感じている)
でも、
まだ安心にはほど遠い。
美咲の揺れが、
文字の向こうににじんでいる。
(見えないのが普通なんだ)
友彦は、
そう思いながら
キーボードに手を伸ばした。
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家で勉強道具を開かないことは
ある意味、自然なことです。
急に変わるのではありません。
心の中がだんだんほわほわ温かくなってきて、
それである時その積み重ねが閾値を超えるんです。
植物がある日芽を出すのと同じ現象です。
陽子さんの心は温かくなってきていて、
もう動き始めているんです。
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送信ボタンを押したあと、
友彦はしばらく画面を見ていた。
(この言葉は
文字だけでは伝わりきらない)
友彦は
確信に近く思った。
(それはいつものこと)
***
午後の青の教室は、
子どもたちの声が混じり合っていた。
陽斗は、
折り紙の星を光にかざして、
「ほら、ここ金色に見えるよ!」と
ひかりに見せていた。
「ほんとだ!」
ひかりは、星の影が机の上にゆれるのを追いかけている。
さとるは、
プリントを片手に、
「先生、これ昨日オレどこまでやったっけな」
と首をかしげている。
ページをめくる手は雑なのに、
目だけは真剣だった。
陽子は、
そんなみんなの声を背中で聞きながら、
昨日書いた“光の詩”をそっと見返している。
その横顔には、
ほんの少しだけ、
“考えている人”の気配が差していた。
友彦は、
その姿を見ながら思った。
(陽子は、
確かに動き始めている)
でも、
その動きはまだ土の中。
外からでは見えない。
美咲の不安はよくわかる。
***
夜、授業が終わり、
教室が静かになったころ。
見ると、美咲の“既読”がついていた。
返信はまだない。
友彦は窓の外の空を見上げた。
春の夜の光は弱い。
でも、確かにそこにある。
芽はもう動いている。
これが子どもの力だと思う。
友彦には、
陽子にも青の光が届いたという思いが
嬉しくて、嬉しくて仕方がなかった。