青の教室/陽子 第10話(3月23日) 「小さな風、小さな選択」

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学び
第10話(3月23日)

「小さな風、小さな選択」

夕方の光は、昨日よりも少しだけ赤みを帯びていた。
 青の教室の窓から差し込むその光の中で、陽子は机に向かっていた。

プリントを開いた瞬間、胸の奥にざらつきが走る。
 昨日より軽いはずなのに、影はやっぱりついてくる。

「……なんで、こんなに揺れるんだろう」

鉛筆を持つ手が、ほんの少しだけ震えた。

そのとき、友彦がそっと近づいてきた。
 風のように、静かに。

「陽子、課題表からでも、自分勉強でもいい。
 30分くらいでできそうな“小目標”を作ってみないか」

陽子は顔を上げた。
 友彦の声は、いつもより少しだけ軽かった。

「それとも……コープへアイスクリームを買いにでも出かけてみるか。
 青の教室に以前いた子はね、ブルータイムっていうのをやっていたよ。
 自分で決めたお勉強をやりとげると、10分間、外で遊んできていいんだ」

陽子は、ぽかんとした。

「……遊んでいいんですか?」

「うん。
 “やりたい”を大事にする時間だよ」

その言葉が、陽子の胸の奥で小さく揺れた。


すみれとほのかの声

「陽子、どうするの?」

すみれがノートを抱えながら近づいてきた。
 ほのかも後ろからひょこっと顔を出す。

「アイス行くなら、私も行きたいなぁ」
 ほのかが笑う。

「ほのかは何でもアイスでしょ」
 すみれが呆れたように言う。

二人のやり取りに、陽子は少しだけ笑った。
 その笑いは、影の隙間から漏れた光のようだった。

「陽子は?」
 すみれが優しく聞く。

陽子は胸のざらつきを感じながら、
 自分の中の小さな芽を探した。

(……やりたいこと、あるのかな)

昨日見つけた芽は、まだ弱い。
 影に揺れそうな光だった。

でも、確かにそこにある。


陽子の選択

「……私、30分だけ、やってみる」

その言葉は、陽子の中で小さく震えた。
 でも、確かに“自分の声”だった。

「お、いいね」
 友彦が微笑む。

「じゃあ、30分の小目標を決めようか」

陽子はプリントを見つめた。
 ざらつきはまだある。
 影もまだ揺れている。

でも、今日は逃げなかった。

「……英語の、ここまで。
 三つだけ、やる」

「うん。十分だよ」
 友彦の声は、風のようにやわらかかった。


30分の風

陽子は鉛筆を握り直した。
 すみれとほのかは、それぞれの席に戻っていく。

教室には、静かな風が流れた。

陽子は一問目を解く。
 胸のざらつきが少し動く。

二問目。
 影がふっと揺れる。

三問目。
 手が止まりそうになる。

(……大丈夫。三つだけって決めたんだ)

陽子は深呼吸をした。
 影は消えない。
 でも、影の中で光が揺れている。

最後の一問を書き終えた瞬間、
 胸の奥に、ほんの小さな晴れ間が生まれた。


ブルータイムの10分

「陽子、できたね」
  友彦がそっと声をかける。

「……はい」

「じゃあ、ブルータイムに行っておいで」

陽子は驚いた。

「え、私も……行っていいんですか?」

「もちろん。
 自分で決めて、自分でやりとげたんだから」

陽子は立ち上がった。
 すみれとほのかが駆け寄ってくる。

「陽子、行こ!」
 ほのかが手を引く。

「アイス買う?」
 すみれが笑う。

陽子は、少しだけ迷って――
 小さくうなずいた。

「……うん。行く」

三人は夕方の光の中へ走り出した。
 影はまだついてくる。
 ざらつきも消えない。

でも、風が吹いていた。
 陽子の中に、小さな晴れ間があった。

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