青の教室 蒼真の15 第7章 願書の前で

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学び
第7章 願書の前で

十月の風は、夏の匂いを完全に手放し、
 乾いた秋の空気をまとっていた。

蒼真は、学校からの帰り道、
 胸の奥に重たい石のようなものを抱えていた。

(……願書、どうするんだよ)

サッカー名門校の専願。
 それが蒼真の“現実的な道”だった。

でも――
 母は納得していなかった。

「蓮くんは関学を受けるのよ。
  あなたももっと上を目指しなさい」

その言葉が、
 胸の奥に深く刺さっていた。

(俺は……蓮じゃない)

そう言いたいのに、
 言えなかった。


***

青の教室に入ると、
 蓮が過去問を広げていた。

「蒼真、聞いたで。
  お前、専願にするん?」

「……まあな」

「ええやん。
  お前、あの学校のサッカー部に入りたかったんやろ?」

「……うん」

蓮は、
 蒼真の“揺れ”に気づいていた。

「なあ蒼真。
  俺、関学受けるけど……
  別に“上”とか“下”とか思ってへんで」

「……そうか?」

「当たり前やん。
  道が違うだけやろ」

蓮は、
 迷いのない声で言った。

(道が……違うだけ)

その言葉は、
 胸の奥に静かに落ちた。


***

英語の時間。
 蒼真は、
 友彦の作ったプリントを解いていた。

短い文。
 でも、
 以前よりずっと読みやすい。

(読める……)

胸の奥が、
 少しだけ軽くなる。

そのとき、
 友彦が静かに声をかけた。

「蒼真。
  願書のこと、悩んでるね」

蒼真は、
 胸の奥がぎゅっと縮むのを感じた。

「……なんで分かるんですか」

「分かるよ。
  蒼真の“影”が、
  いつもより揺れてるから」

影――
 その言葉に、
 胸の奥がふっと揺れた。

「母さんが……
  蓮と同じ学校を受けろって言うんです」

「蒼真は、どうしたい?」

「俺は……
  サッカーの名門校に行きたい。
  でも……
  母さんが……」

友彦は、
 静かにうなずいた。

「蒼真。
  “誰かの道”を歩くとね、
  どこかで必ず苦しくなるよ」

「……」

「蒼真の道は、
  蒼真が決めていい」

その言葉は、
 胸の奥にすっと染み込んだ。

(俺の……道)

友彦は続けた。

「お母さんはね、
  “心配”と“期待”が混ざってるんだよ。
  でも、
  蒼真の人生は蒼真のものだ」

蒼真は、
 胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。

(俺の人生……俺のもの)

そんな当たり前のことが、
 今まで分からなかった。


***

休憩時間。
 紗月が、
 蒼真の隣に座った。

「蒼真くん……
  願書のことで悩んでる?」

「……まあな」

「うん。
  そういう顔してる」

紗月は、
 蒼真の“影”を見抜いていた。

「ねえ蒼真くん。
  わたしね……
  蒼真くんが“自分の道”を選んだら、
  すごく嬉しいと思う」

「……なんで?」

「だって、
  蒼真くんの15歳は、
  蒼真くんのものだから」

その言葉は、
 胸の奥に静かに落ちた。

(俺の15歳……俺のもの)

紗月は続けた。
「蓮くんは蓮くんの道を行く。
  蒼真くんは蒼真くんの道を行く。
  それでいいんだよ」

蒼真は、
 胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。

(俺の道……)

その言葉が、
 胸の奥で静かに響いていた。


***

その日の夜。
 蒼真は、
 母の前に願書を置いた。

「……俺、ここに行きたい」

母は、
 しばらく黙っていた。

「蓮くんは関学なのよ」

「俺は……蓮じゃない」

その言葉は、
 震えていたけれど、
 確かだった。

母は、
 ゆっくり息を吐いた。

「……分かったわ。
  あなたの道を行きなさい」

蒼真は、
 胸の奥がふっと軽くなるのを感じた。

(俺の道……認められた)

その瞬間、
 胸の奥の影が少しだけ薄くなった。


***

翌日。
 青の教室に入ると、
 友彦が静かにうなずいた。

「決めたんだね」

「……はい」

「いいね。
  蒼真の空が、
  少しひらいたよ」

蒼真は、
 胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。

(空が……ひらいた)

紗月が、
 小さく微笑んだ。

「蒼真くん。
  今日の空……すごくきれいだよ」

その言葉は、
 秋の風のように胸に落ちた。

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