青の教室 「色が見つかる場所」 第2章 そら──気をつかう自分の正体
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第2章 そら──気をつかう自分の正体
中村そらは、
放課後の廊下を歩きながら、
胸の奥がきゅっと縮むような感覚を覚えていた。
「……本当に行くのかな、私」
青の教室の前に立つと、
ドアの向こうにいる誰かの気配を感じて、
そらは一瞬、帰ろうかと思った。
そらは、
人の気持ちを読むのが得意だ。
というより、読んでしまう。
「これ言ったら嫌われるかな」
「怒ってる? 怒ってない?」
「どう思われてるんだろう」
そんなことばかり考えて、
いつも疲れてしまう。
母にすすめられて青の教室に来たけれど、
本当は少し怖かった。
でも――
ドアの向こうから聞こえた声は、
思っていたよりずっと柔らかかった。
「どうぞ」
そらは、そっとドアを開けた。
■ そらと友彦の最初の会話
「こんにちは。中村そらちゃんだね」
友彦は、
そらの目をまっすぐに見た。
そのまなざしは、
“評価”でも“期待”でもなく、
ただ“受け止める”だけの色をしていた。
そらは、
その視線に少しだけ救われた気がした。
「……はい」
声は小さかったが、
友彦はその小ささを否定しなかった。
「そらちゃんは、どんな勉強が好き?」
「えっと……わからないです」
そらは、
正直にそう言った。
本当は、
“好き”とか“嫌い”とか言うのが怖かった。
でも友彦は、
そらの答えをそのまま受け取った。
「そらちゃんの“わからない”は、
とてもいいね」
「……いいんですか?」
「うん。
“わからない”って、
これから見つけられるってことだから」
そらの胸の奥が、
少しだけ温かくなった。
■ そらの“気をつかう癖”
プリントを解き始めると、
そらはすぐに手を止めた。
「……これ、合ってるのかな」
そらは、
友彦の顔をちらっと見た。
「そらちゃんは、どう思う?」
「えっと……
たぶん……合ってる……と思います」
「じゃあ、それでいいよ」
「えっ……?」
そらは驚いた。
いつもなら、
「ちゃんと考えて」
「もっと自信を持って」
と言われるところだ。
でも友彦は、
そらの“たぶん”を否定しなかった。
「そらちゃんの考えは、
そらちゃんにしか出せないからね」
その言葉は、
そらの胸の奥に静かに落ちた。
“私の考え……
私の……?”
そらは、
自分の中にそんなものがあるとは
思っていなかった。
■ 小さな声が動き出す
プリントを終えたそらは、
帰り際にふと立ち止まった。
「先生……」
「うん?」
「私……
また来てもいいですか」
その声は小さかったが、
確かに“そら自身の声”だった。
友彦は、
そらの声を大切に扱うように微笑んだ。
「もちろん。
そらちゃんのペースでね」
そらは、
胸の奥がふわっと軽くなるのを感じた。
――ここなら、
“気をつかわない自分”でも
いていいのかもしれない。
その小さな予感が、
そらの中でそっと芽を動かした。