青の教室 「色が見つかる場所」 第1章 ひなた──明るさの奥の影
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第1章 ひなた──明るさの奥の影
放課後の教室は、
昼間のざわめきが嘘みたいに静かだった。
佐伯ひなたは、
ランドセルを背負ったまま廊下を走り抜け、
青の教室の前でぴたりと止まった。
「……ここかぁ」
ドアの前で深呼吸する。
胸の奥が、少しだけざわざわしていた。
ひなたはクラスの中心にいる。
明るくて、元気で、誰とでも話せる。
テストもそこそこできるし、運動もそこそこできる。
でも――
“そこそこ”の自分が、
最近ちょっとだけ嫌だった。
「もっとできるようになりたい」
「でも、何を頑張ればいいのかわからない」
そんな気持ちを抱えたまま、
ひなたはドアをノックした。
「どうぞ」
落ち着いた声が返ってきた。
■ 青の教室との出会い
ドアを開けると、
白髪まじりの男性がゆっくり立ち上がった。
「こんにちは。佐伯ひなたちゃんだね」
「はいっ!」
ひなたは、いつものように元気よく返事をした。
でも、その声の奥には少しだけ緊張が混じっていた。
友彦は、
ひなたの“明るさの奥”を
一瞬で見抜いたような目をしていた。
「ひなたちゃんは、どんな勉強が好き?」
「えっと……全部そこそこ好きです!」
言ってから、
ひなたは少しだけ恥ずかしくなった。
“全部そこそこ”なんて、
なんだか自慢にもならない気がしたから。
でも友彦は、
ふっと優しく笑った。
「全部そこそこ好きって、すごいことだよ」
「え?」
「どの方向にも伸びられるってことだからね」
ひなたは目を丸くした。
そんなふうに言われたのは初めてだった。
■ ひなたの“影”
プリントを解き始めると、
ひなたの手がふっと止まった。
「……先生、私って何が得意なんでしょう」
ぽつりとこぼれた言葉は、
ひなたの“影”そのものだった。
友彦は、
すぐには答えなかった。
「ひなたちゃんは、どう思う?」
「うーん……
なんか、全部“そこそこ”なんです」
ひなたは笑ったが、
その笑顔は少し揺れていた。
「“そこそこ”ってね、
実はすごく大事なんだよ」
「大事……?」
「うん。
どの方向にも伸びられるってことだから」
ひなたの胸の奥で、
何かがふっと軽くなった。
“そこそこ”は、
悪いことじゃないのかもしれない。
■ 小さな芽が動き出す
プリントを解き終えたひなたは、
帰り際にふと振り返った。
「先生、また来てもいいですか?」
「もちろん」
友彦は、
ひなたの“まだ言葉にならない何か”を
静かに受け止めるように微笑んだ。
ひなたは思った。
――ここなら、
“そこそこ”の自分でも、
何か見つけられるかもしれない。
その小さな予感が、
ひなたの中でそっと芽を動かした。