まちこは、小学四年の頃、教室の空気を支配していた。
女子の中心にいて、誰よりも声が大きくて、誰よりも強かった。
先生が嫌いだった。
嫌いというより、信用していなかった。
だから、勉強なんてしなかった。
「やればできる」なんて言葉は、まちこにとってはただの呪文だった。
そんなまちこが変わり始めたのは、
リバティの木村センセのところに通うようになってからだった。
最初は、ただ座っているだけだった。
プリントを前にしても、鉛筆は動かない。
でも、センセは怒らなかった。
急かさなかった。
ただ、まちこの横に静かに座り、
「今日はここだけやってみよか」
と、たった一行だけを示した。
その一行が、まちこの世界を少しずつ変えていった。
中学一年になったまちこは、
まるで別人のように机に向かうようになった。
学校は楽しい。
友だちもできた。
でも、先生は相変わらず好きじゃない。
それでも、まちこは勉強する。
誰かのためじゃない。
怒られないためでもない。
自分の目標ができたからだ。
「私、英語で90点とりたいねん」
ある日のリバティで、まちこは照れくさそうに言った。
センセは笑って、
「じゃ、90点とるための勉強しよか」
とだけ言った。
その言葉が、まちこの胸にすとんと落ちた。
まちこのノートは、いつの間にかぎっしりと文字で埋まるようになった。
線が曲がっていたり、字が踊っていたりするけれど、
そのどれもが、まちこの“生きた証拠”だった。
「わかった!」
「できた!」
「これ、前より早く解けた!」
そんな声が、リバティの教室に響くようになった。
勉強が楽しい。
それは、問題が簡単だからじゃない。
褒められるからでもない。
自分が変わっていくのが、わかるからだ。
昨日できなかったことが、今日できる。
その小さな奇跡が、まちこの胸を熱くした。
ある日、センセが言った。
「まちこ、最近めっちゃええ顔してるな」
まちこは、照れくさそうに笑った。
その笑顔は、小四の頃の“強がりの笑い”とは違っていた。
芯があって、まっすぐで、未来を見ている笑顔だった。
「センセ、私な、勉強ってな……
やったらやっただけ、自分が強くなる気がするねん」
センセは、ただ静かにうなずいた。
その言葉を、まちこの人生の宝物のように受け取るように。
まちこは、今日も机に向かう。
ノートを開き、鉛筆を握りしめ、
自分の未来を一行ずつ書いていく。
勉強は、もう義務じゃない。
戦いでもない。
誰かに勝つためのものでもない。
まちこが、自分の人生を自分で選ぶための道具だ。
そして、その道具を手にしたまちこは、
これからどこへでも行ける。