この不安、あなただけじゃない
最近、出版業界のニュースを目にするたび、胸の奥がざわつく。
「このまま会社にいていいのだろうか」
「肩書がなくなったら、自分には何が残るのだろうか」
年齢を重ねるほど、こうした不安は現実味を帯びてくる。
これは、決して一部の人だけの悩みではない。かつて大手出版社で働いていた私自身が、まさにその渦中にいたからだ。
出版社再編の時代に、何が起きているのか
私が長年勤めた主婦の友社は、現在カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)傘下のカルチャーエンターテイメントに紐づく出版社となっている。
徳間書店、CCCメディアハウス、美術出版社など、十社ほどがグループに名を連ね、先週には親会社に対してSBI系企業が出資するというニュースも流れた。
今後の詳細はまだ見えないが、SBI主導で再編が進んでいくであろうことは、想像に難くない。
絶体絶命の会社を立て直した「信用」
私が主婦の友社に転職した当時、専務としてMさんという方がいた。後に社長になる人物だ。
当時の主婦の友社は、バブル崩壊の影響で400億円以上の負債を抱えていたと言われている。まさに崖っぷちだった。
その状況でMさんは社長を引き受け、「今は苦しいが、利益が出たら必ず社員に還元する」と繰り返し語っていた。
約束は、言葉ではなく行動だった
Mさんは7期にわたり社長を務め、事業をすべて黒字化した。
そしてある年、全社員へのインセンティブ支給を本当に実行した。
私の記憶では32万円。銀行振込ではなく、手渡しの現金だった。
その瞬間、社員の空気が変わったのを、今でもはっきり覚えている。
「この人についていこう」
それ以上のモチベーションは、存在しなかった。
信用が失われると、組織は崩れる
しかし、Mさんが退いた後、状況は一変した。
社長たちは社員と向き合わず、赤字が続いた。
私は2020年に退職したが、その後、編集長・部長経験者など、会社に不可欠な人材が20人以上辞めていった。
社員約110人に対して、この数字は異常だ。
理由はシンプルだと思う。
社員は会社を信用していない。会社も社員を信用していない。
出版社は二極化していく
これからの出版社は、二つに分かれていくと私は考えている。
一つは、徹底的にドライなビジネスを進める大手出版社。
もう一つは、小規模でも「信用のクレジット」を何より大切にする出版社だ。
大手で活躍することは素晴らしい。私自身、講談社時代は大きな充実感を得ていた。
だが、年齢を重ねるにつれ、肩書が消えた後の人生と向き合わざるを得なくなる。
問いを投げたい
定年後、会社名が名刺から消えたとき、あなたに残るものは何だろうか。
肩書きではなく、人との信用は残っているだろうか。