SNSで最近、こんな投稿を目にしました。
ある著者の方が「自分の本が書店に並んでいて嬉しい」「まだ置いてもらっているうちに、もっと広めなきゃ」と高いテンションで投稿していたのです。
その方は一年半ほど前に紙の商業出版でデビューをしたそうです。
業界に長くいる人間からすれば、「発売から一年半」という時点で、その本が“売れたかどうか”の結果はもうはっきりしている期間です。
けれど、著者本人はそんな裏事情を知る機会がほとんどありません。
自分の本が出るというのは、一生に一度あるかないかの経験です。
テンションが上がるのは当然です。
だからこそ私は、その投稿を見ながら「わかるなぁ」と共感しつつも、どこか胸が痛くなるような気持ちになりました。
デビュー作の“その後”を数字で見てしまった
少し意地悪かもしれませんが、私はその本の流通データを調べてみました。
(出版業界にいると、ある程度のデータはすぐに調べられるのです。)
結果は――驚くほどシビアでした。
なんと、返品率は約70%。
つまり10冊出荷されたうち7冊が書店から戻ってきているということです。
実際に売れたのは全体の25%ほど。
残りの数%は、今も書店の倉庫や棚で“滞留”している状態です。
この数字を見て「それでも健闘しているほうだ」と言う編集者もいます。
けれど、ビジネスとして採算が合うはずもありません。
著者にとっては「夢の出版」でも、出版社にとっては赤字案件となっている可能性が高いのです。
「売れない」とわかっていても、本を出し続ける出版社
先日、あるビジネス書系で強い出版社の編集者と話をしました。
その人は率直にこう言いました。
「売れる本もたまにはあるけど、全体としては全然売れない。正直、もう出さないほうがいいぐらいだよ」と。
それでも、出版社は本を出し続けなければなりません。
なぜか。
それは、出版社という会社には「売上目標」というものがあるからです。
書籍部門として前年対比や期の予算が決まっており、そこに到達しなければならない。
つまり、たとえ返品が見込まれていても、「出さない」という選択肢がほとんどないのです。
本を出すことで、いったんは“売上”が立ちます。
後に返品が来てマイナス計上されたとしても、まずは数字を作らなければならない。
この構造的なジレンマこそが、出版業界の大きな問題のひとつなのです。
「テンションが上がる著者」と「冷静な出版社」の温度差
著者がテンション高く「もっと売らなきゃ!」と投稿している裏で、出版社側は冷静に“採算ライン”を見ています。
本が赤字になれば、当然その著者の「次」は難しくなります。
2冊目、3冊目のチャンスは極めて限られるのです。
著者に悪気はまったくありません。
むしろ、情熱がある人ほどそうなりやすい。
しかし、ビジネスとして見ると「厳しい結果を作ってしまっている」ことも事実です。
その結果、出版社からの信頼を失ってしまうことも少なくありません。
出版は夢の舞台でもあり、同時に冷徹なビジネスでもあります。
この現実を知らずに突っ込んでしまうと、最初の1冊が“最初で最後”になってしまうのです。
これからの時代は「プロセス重視の電子出版」へ
こうした背景があるからこそ、私は電子書籍でのデビューを強く勧めています。
しかも、単なる自己出版ではなく――
商業出版と同じ編集・制作プロセスを経た、プロクオリティの電子書籍です。
紙の本のように在庫や返品のリスクもありません。
何より、出版を「単発の夢」ではなく「ビジネスの起点」にできるのが大きな利点です。
出版という形で世に出ることは、誰にとっても特別な経験です。
だからこそ、テンションだけで突き進むのではなく、冷静に“次につながる一手”を選んでほしいと思うのです。
「出版のリアル」を知ることが、次のチャンスをつくる
出版は華やかに見えて、実は地道で、数字と現実の世界です。
その構造を理解し、自分の立ち位置を見極めること。
それが、本当の意味で「次につながる出版」につながります。
本を出すことはゴールではなく、スタートです。
そして、スタートラインに立つ方法は、もう紙の商業出版だけではありません。
これからは、プロセスを大事にした電子出版という選択肢が、確実に主流になっていくでしょう。