さて、前回は、周易の概要なんかを、つらつら書いた訳だが、少しかじっている人にとっては、退屈だったかとは思う。
とはいえ、なにせ、日本では、絶滅危惧種なので、一般向けに、説明した次第である。
そもそもは、今回の事を書こうとしたら、長くなり過ぎてしまったので、2回に分けたのである。
本題は、こちらである。
易(煩雑なので、以下、周易は、易と省略する)には、色々な種類の「卦」(タロットでいうところのカード)がある訳だが、その中で、「地火明夷」という卦がある。
「火」が「地」の下にある形で、お日様が沈んで、地上が真っ暗になってしまった状態。
「明」るく正しい者が、「夷」(やぶ)れ傷つく事を意味している。
人は誰しも、正しい言動をしているのに、困窮して、その理不尽を嘆く訳だが、「地火明夷」は、はっきりと人生のフェーズには、そうゆう時期があると言い切っている。
陽(正)が弱まり、陰(邪)が強くなる時と言っていいだろう。
正しい言動をしているから、ずっとハッピーという訳にはいかないのだ。
孔子と弟子の子路の問答にも、こんな下りがある。
孔子一行が、諸国を旅していたら、賊と間違われて包囲されて、食料が無くなった時のやりとりだ。
子路
「君子(孔子を指す)でもこんな苦しい目に遇うことがあるのですか」
孔子
「君子だって時には窮地に陥ることは有るさ。只その時君子は平常心を失わず冷静に対処するが、小人が窮すると濫(乱)れてなにをしでかすか知れないよ」。
孔子は、琴を弾いて、包囲が解けるのを待ったらしい。
「易」は、周の文王が、殷の紂王に、逆心を疑われて、幽閉された時に書かれたとされる。
紂王は、「酒池肉林」という言葉の由来となった暴君である。
殷では祭礼の際に、人を生贄に使ったとされる。
紂王は、文王の息子を釜茹でにして、そのスープを飲むよう迫った。
文王は、勿論、内心は、紂王を倒さねばとは思っていただろうが、今はその時機ではないと、泣く泣く、子供のスープを飲んだという。
「能ある鷹は爪を隠す。」という言葉があるが、「地火明夷」には「韜晦」(とうかい)という言葉が出てくる。
意味は、「自分の才能・地位などを隠し、くらますこと。また、姿を隠すこと。行くえをくらますこと。」である。
無能な上司に仕えたら、徒に実力を表せば、殺される危険がある。
弱肉強食の古代の知恵である。
文王は亡くなるが、後年、その息子である武王が、殷を滅ぼして周を建国する。
時機(タイミング)を待つのが、どれだけ大事かわかる逸話である。
私は、苦しい局面の時は、この卦を思い出す事にしている。
つまり、どれだけ酷かろうと、自分の子供を煮たスープを飲むよりは、マシだと思うのである。
タロットだと、多分、「ソードの10」あたりが、対応するような気がする。
あの絵も、10本の剣が身体に刺さり、明らかにオーバーキル状態で、酷い有様だが、遠くの山の端は、うっすら明るくなってきていて、夜明けは近いと読む。
私は、お客様を占っていて、「ソードの10」が出ると、ホッとする事が多い。
これ以上、下は無いし、あとは、上がるだけだと言えるからだ。
今、もし、苦しい状態であったなら、「地下明夷」と「ソードの10」を思い出して欲しい。
古の伝説の皇帝も、苦しい目には合うのだから…。
恵梧