10、環境問題に関する本
①『失われた森~レイチェル・カーソン遺稿集』(リンダ・リア編、集英社文庫)
本書はアメリカの環境史の教授リンダ・リアが編んだカーソンの遺稿集です。カーソンの『沈黙の春』は余りにも有名で、「不気味な沈黙が漂っていた。そういえば鳥たちはどこへ行ったのか」「春の声を沈黙させたのはいったい何だろう」というくだりは忘れ難いところです。ここから化学物質による環境汚染が本格的に告発されたのであり、今日の環境保護活動のきっかけとなり、エコロジーへの関心も一気に高まっていきました。歴史を動かした力作の底にあるのは、地球のすばらしさは生命の輝きにあるという強い思いと、生命に対する畏敬の念であり、その思いを支えているのが「センス・オブ・ワンダー」(sense of wonder、神秘や不思議に目を見張る感性)です。カーソンは自然を間近から隅々まで丁寧に観察することで、いつも新鮮な驚きを感じ、そこから生命の輝きを捉えているのであり、この感性を子供達に期待しようと言っています。本書は「環境の時代」となるこれからにおいて、基本的な拠り所になると目されています。
②『奪われし未来』(シ-ア・コルボ-ン、ダイアン・ダマノスキ、ジョン・ピ-タ-ソン・マイヤ-ズ共著、翔泳社)
いわゆる「環境ホルモン」問題は、1996年に米国で出版された本書の告発から全て始まっています。環境問題の古典として欠かせないのが、1962年に米国の女性科学者レイチェル・カ-ソンが著わした『沈黙の春』で、DDTなどの農薬によって野生動物や人間に影響が出ていることを初めて警告し、大変な反響を呼んだため、学校の教科書などにも多く取り上げられるようになりましたが、『奪われし未来』はこれに次ぐ、「第二の『沈黙の春』」と評価されています。
③『レイチェル~レイチェル・カーソン 沈黙の春の生涯』(リンダ・リア、東京書籍)
自然科学者として科学の毒性に直面し、技術文明に警告を発したレイチェル・カーソンの『沈黙の春』は、今や環境保護運動のバイブルとなっていますが、本書はここに至るレイチェルの公私こもごもの苦闘の跡を、年代記的克明さで追っています。レイチェルは相次ぐがんの転移に見舞われつつ、政府、産業界、同僚からの露骨にして陰湿な無視、妨害、時としてセクハラと言える嫌がらせを受けながら、『沈黙の春』を完成させたのでした。著者は米ジョージ・ワシントン大学研究教授(環境史専攻)で、レイチェル研究の第一人者です。
④『エコ・エコノミー』(レスター・ブラウン、家の光協会)
ワールドウォッチ研究所を設立した著者が、地球環境の異変を紹介しており、「人類は地球を救うための戦略レベルでの闘いに敗れつつある」としています。例えば、中国の場合、「黄河は1997年には226日間、海に注がなかった」「北京市の地下水位は1965年以来、59メートル低下し、中国北部は干上がりかけている」「北西部を中心に年間数百万トンの表土が失われ、砂漠化し、2001年には史上最大規模の黄塵(こうじん)あらしが発生した」と指摘しており、世界が持つべき共通の明確なビジョンとして「エコ・エコノミー」(Eco-economy)、つまり「環境的に持続可能な経済」(Environmentally Sustainable Economy)の実現を強調しています。
著者は営利中心の経済ではなく、自然の生態系と調和する「環境コスト」(Environmental Cost)を織り込んだ経済に向かうしかないと述べ、所得税を減税し、環境に負荷の大きい生産と消費に課税する税制改革を訴えています。
⑤『胎児の複合汚染~子宮内環境をどう守るか』(森千里、中公新書)
作用不明な合成化合物は日々大量に世界中で作り出され、環境に放出されていますが、単独では無害に見える、幾つもの異なる物質が混ざり合った時、初めて毒性が現われることもまれではないとされます。これが「複合汚染」(Compound Pollution)です。こうした物質に一番敏感なのは受胎間もない胎児であり、化学物質の安全基準は一番「強い」成人への毒性を基準にしていて、育ちつつある胎児への影響という視点がほとんど無いと指摘されています。
胎児にとっては子宮が全てであり、大人にとっての地球環境に対比できる、胎児にとっての環境世界と言えますが、このインナースペースの汚染はすでに進行中であり、著者は「この問題で健康への影響が本当にあらわれるのは、今生きているわれわれではなく、次の世代やその次の世代と考えられており、子孫に負の遺産を残さないためにも、価値観の転換とそれを伝え実行していく教育体制の整備が必要と考えられる」と警告しています。こうした観点から、「環境健康予防医学指導士」という制度を設け、胎児を環境ホルモンや汚染物質から守る予防医学の行政システムを築くべきであるというのです。