2、地球温暖化(global warming)
(1)二酸化炭素(carbon dioxide)濃度が2倍になると、どうなるか
①水資源=乾燥地帯で大きな影響が生じ、干ばつの激化で水の確保に大きなコスト増。
②植生=森林面積3分の1が変化。病虫害の増加などで森林破壊、大量の二酸化炭素放出も。
③食料生産=熱帯・亜熱帯で生産量低下、最貧困地域で飢饉の危険。害虫、異常気象の影響も。
④健康影響=マラリアの患者数5000万~8000万人増加、コレラなども増える恐れ。
⑤洪水・高潮=被害を受けやすい人口は9200万~1億1800万人と現在の2倍以上に。
ちなみに世界の研究者で作る「気候変動に関する政府間パネル(IPCC=Intergovernmental Panel on Climate Change)」は2001年にまとめた第3次報告書で、20世紀中に地球上の平均気温が0.6度前後上昇したとし、「1990年代は過去1000年間で最も暖かい10年間だった可能性が高い」としています。このままでは1990年に比べ、2100年時点の気温は最大5.8度、海面水位は最大0.88メートル上昇すると予測されており、すでに南太平洋の島国ツバルでは、ここ数年、海面上昇が影響していると見られる家屋の浸水が頻発しているのです。
(2)京都会議
気候変動枠組み条約(UNFCCC)は1992年の地球サミットで署名され、1994年に発効しました。その第3回締約国会議(COP=Conference of parties)である京都会議(COP3)では、60~70年代の公害問題(その基本原則は「PPP=Polluter Pays Principle、汚染者負担の原則」とされました)とは違って、今や環境問題は国や企業の時限を超えた世界的問題であることを印象付けましたが、そこで採択された「京都議定書(Kyoto Protocol)」では、具体的に経済協力開発機構(OECD)加盟国を中心とした先進国と旧ソ連、東欧諸国などは、2012年までの5年間で達成すべき温室効果ガス(greenhouse
effect gases=二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素など6種類)の排出削減目標を課しています。この間の年間平均排出量について、日本は1990年度比で6%、EUは8%、米国は7%を減らさなければならず、発展途上国に削減義務が無いことへの反発や自国経済の発展阻害への懸念から米国は京都議定書を受け入れず、修正協議にも応じなかったことから、気候変動枠組み条約第6回締約国会議(COP6)は紛糾しました。
地球温暖化は二酸化炭素の排出が主原因ですが、この他にも大気中の硫黄化合物や窒素化合物による酸性雨、焼却炉や産業廃棄物によるダイオキシン、オゾン層を破壊するフロンガスなどが問題となっており、こうした状況を生み出した現代社会のあり方そのものが問われることとなっています。すなわち、従来の大量生産・大量消費・大量廃棄では、結局、人間自身の首を自ら絞める結果となったのであり、これに対して省エネルギ-・適正消費・リサイクルが必要であることが認識されるようになったわけです。ここで出てきたのが「循環型社会(Circulating Society)」「環境調和型社会(ecological society)」「環境立国(building an ecologically sustainable society)」という概念で、宇宙船地球号の一員として避けられないテーマとなっています。
(3)京都メカニズム(Kyoto Mechanisms)
地球温暖化防止京都会議では、温室効果ガス排出量削減をさらに効果的に進める具体策として、各国間で温室効果ガスの排出枠をやりとりする仕組みである「京都メカニズム」が議定書に盛り込まれました。
このメカニズムには、①温室効果ガスの排出量を売買する「排出量取引(ET=Emission Trading)」(先進国が国内対策だけでは目標が達成できない場合、他国から余った排出枠を買って埋め合わせるというもので、将来は20兆円を超える巨大な環境ビジネスに成長するとの見方が有力です)、②先進国間で相手国に資金や技術を援助して削減した場合、自国の削減分に組み入れる「共同実施(JI=Joint Implementation)」、③先進国が途上国の削減に協力して、成果の一部を自国の削減分に組み入れる「クリーン開発メカニズム(CDM=Clean Development Mechanism)」の3つの方法があります。
日本では省エネルギー対策は比較的進んでおり、さらなる省エネはなかなか難しく、それを実施するために多額の資金も必要です(温室効果ガスの削減コストは日本を1とすると、EUは0.8、米国0.6程度、途上国はさらに低いと言われています。あるいは日本で1トンの二酸化炭素を削減するのにかかるコストが125ドルであるのに対して、35ドルの欧州と比べて3.6倍高いとの試算もあります)が、一方、省エネ対策をこれまで本格的に進めてこなかった途上国に、日本の省エネ技術を持ち込めば、より安価で大量の温室効果ガスを削減でき、結果的に低コストで削減目標をクリアできる利点があるため、日本は6%の削減のうち、1.8%は京都メカニズムでまかなう計画だといいます。ただ、こうした「柔軟性措置」の範囲に関しては、限度枠(シーリング)がはめられることとなりました。
京都議定書を批准するには、省エネや新技術開発など国内対策の強化が必要であり、中央環境審議会は「経済的措置」に加えて、①温室効果ガス排出量の公表制度、②省エネ機能や断熱住宅の優遇、③太陽光やバイオマスなど自然エネルギーの飛躍的促進、など複数の分野の政策を組み合わせた「ポリシー・ミック(policy mix)」を検討しています。一方、欧州で広がりつつあるのが、化石燃料に課税する「炭素税(carbon tax)」や、燃費の悪い車の税率を上げる「税制のグリーン化(greening of taxation)」などであり、自然エネルギーや低公害車などを相対的に買いやすくする政策が取られました。
(4)排出量取引
「排出量取引」は、企業などが排出削減目標を達成できない場合に、予定以上に排出削減が達成できた企業から温室効果ガスの排出枠を買い取るのを認める仕組みです。京都メカニズムの排出量取引は「国際排出量取引」と呼ばれ、国内の事業者等を対象とした「国内排出量取引」とは区別されます。これによって、排出を削減するための費用と排出枠を買い取る費用を比較し、より安い方を選ぶことで、社会全体で低コストで温暖化防止効果を上げることが期待できるとされます。例えば、火力発電所や工場、運送会社、オフィスビルなどを対象に、企業ごとに温室効果ガスの排出枠を割り当て、それぞれの企業が与えられた枠と実際の排出量との差を売買します。米国では大気浄化法により、1995年から二酸化硫黄(SO2)の排出量取引が行われています。一定規模以上の発電能力を持つ火力発電所などが参加し、年に一度、シカゴ商品取引所で排出枠全体の2.8%分の分配を巡って取引が行われるのですが、残りの97.2%分は、仲介業者(ブローカー)を通じ、発電所間で相対取引されており、取引相場は1トンあたり1~3ドルで取引されています。これに対しては、「環境が安易に買える」という一種の「モラル・ハザード(moral hazard=倫理無秩序)」が発生するという批判があります。
2002年4月より英国で世界初の排出量の国内取引制度がスタートし、二酸化炭素1トンが1,500円程度で取引されています。日本企業もこれに参加していますが、仮に日本の必要削減量1億7700万トンをこの水準でまかなうとすれば、およそ2,600億円で調達できるのに対し、同じ削減量を省エネルギーのみで行う場合には10倍以上のコストが必要となるということです。
(5)パリ協定
2015年、パリで開催された第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)にて採択された、気候変動抑制に関する多国間の国際的な協定(合意)。京都議定書以来、18年ぶりとなる国際的枠組みであり、気候変動枠組条約に加盟する全196カ国全てが参加する枠組みとしては史上初でしたが、2019年にアメリカ合衆国が正式に離脱を表明しました。
(6)家庭でできる10の温暖化対策
環境省作成の「家庭でできる10の温暖化対策」とは次のようなものです。
①冷房を1度高く、暖房を1度低く設定。
②週2日往復8キロの車の運転を止める。
③アイドリングを1日5分ストップ。
④待機電力を90%削減。
⑤家族全員がシャワーを1日1分減らす。
⑥風呂の残り湯を洗濯に使い回す。
⑦炊飯ジャーの保温を止める。
⑧家族が同じ部屋で団らんし、暖房と照明を2割減らす。
⑨買い物袋を持ち歩き、包装の簡単な野菜を選ぶ。
⑩番組を選び、1日1時間テレビ利用を減らす。