(2)天動説から地動説への「コペルニクス的転回」:神学・哲学・科学
①ダンテ『神曲』に見る「世界の構造」
アリストテレスの宇宙論~地球が中心にあって、月、水星、金星、太陽、火星、木星、土星、恒星群が同心球状に配置されます。
四原因論~アリストテレスは、「可能態」(デュミナス)が「現実態」(エネルゲイア)へ変化するという「運動」(キネシス)には、「質料因」「形相因」「始動因」「目的因」という4つの原因があるとします。石像製作を例にすると、「質料因」が石、「形相因」が像、「始動因」が彫刻家、「目的因」が石像を制作する意図にそれぞれ該当します。さらに「運動」の原因をさかのぼっていくと、その果てには「他を動かしても自らは決して動かないたった1つのもの」がいることになり、アリストテレスはこの存在を「不動の動者」「第一動者」と呼び、神と見なしました
可能態(デュナミス)~質料の中に形相が可能性として潜んでいる状態、潜勢。
現実態(エネルゲイア)~可能性が実現した状態、顕勢。可能態が十全に実現されるに至り、目的のうちにあるような有様が「完全現実態」(エンテレケイア)と呼ばれます。アリストテレス哲学によってスコラ哲学(神学)を完成したトマス・アクィナスは、「自存する存在そのもの」としての神を、いかなる可能態も含まない「純粋現実態」として規定しました。
目的論的自然観~自然界の事象は一定の目的によって規定されているという見方。全ての運動は形相の実現を目的としているというアリストテレスの自然観が代表的です。
プトレマイオスの『アルマゲスト』(数学的集大成)~『アルマゲスト』の宇宙論は大枠においてアリストテレスの宇宙論を継承しており、地球から観察される天体の様々な運動や現象を記述するために精巧極まりない数学的モデルを提案しています。このモデルに従う限り、天体の現象は非常に正確に再現出来たのです。このプトレマイオスによる数理天文学の包括的な専門書書で展開された天動説と円運動に基づく天体の運行の理論は、それ以前のギリシア天文学書のほとんどに取って代わるものとなり、1000年以上にわたって数理天文学の基礎として中東およびヨーロッパで受け入れられました。内容としては天体の運行の幾何学的なモデルを中心に、観測や天体の位置の計算、必要とされる数学や簡単な宇宙論まで、天文学を運用するのに必要な知識を広く網羅し、体系的に解説しています。
メソポタミアの天文学では日月食に関しては400年以上にわたるデータの蓄積があり、周期が詳しく調べられていました。また、新月の見える日の予測などと関係して、月と太陽の位置を計算する理論も作られています。プトレマイオスは、太陽と月の位置の理論の精度を上げ、日月食の予測もその理論の応用として導くことに成功したのです。
ダンテ『神曲』天国篇~
(1)第一天(月天)=誓願を全うしなかった魂が住む。
(2)第二天(水星天)=活動的に善行をした魂が住む。
(3)第三天(金星天)=恋に燃えた魂が住む。
(4)第四天(太陽天)=知識人の魂が住む。トマス・アクィナスやボナヴェントゥラなど。
トマス・アクィナス~ドミニコ会修道士、パリ大学教授、スコラ哲学(神学)最大の神学者、『神学大全』。アリストテレス哲学を取り入れて教義を体系化し、信仰と理性の調和を図ろうとしました。「天使的博士」。
ボナヴェントゥラ~トマス・アクィナスと同時代の人物で、フランシスコ会学派を代表する人物の一人とされ、当代の二大神学者と並び称されました。「熾天使的博士」。
(5)第五天(火星天)=信仰のために戦った者の魂が住む。ヨシュアなど。
ヨシュア~ヘブライ人の指導者でモーセの後継者。モーセがカナーンを目前に没した後、人々を率いてヨルダン川を渡りイェリコを占領、ついで一帯の地を征服して12部族を定住させました。
(6)第六天(木星天)=地上で正義を行った者の魂が住む。ダヴィデなど。
ダヴィデ~羊飼いから身をおこして初代イスラエル王サウルに仕え、サウルがペリシテ人と戦って戦死した後にユダで王位に就くと、ペリシテ人を撃破し、要害の地エルサレムに都を置いて全イスラエルの王となり、40年間、王として君臨しました。伝統的に『詩篇』の作者の一人とされ、イスラーム教においてもノア、アブラハム、モーセ、ダヴィデ、イエス、ムハンマドが六大預言者として位置づけられています。
(7)第七天(土星天)=地上で黙想を行なった者の魂が住む。ベネディクトゥスなど。
ベネディクトゥス~モンテ=カシノに修道院を建設し、ベネディクト派修道会を興した「西欧修道制の父」。ベネディクトゥスが定めた戒律はその後の修道会の規範として大きな影響を与え、7世紀頃には、全ての修道院においてベネディクトゥス戒律を準拠することが定められました。
(8)第八天(恒星天・双子宮)=勝利に輝く魂が住む。ペテロなど。
ペテロ~元漁師で、イエスを洗礼した洗礼ヨハネの弟子だったのが、弟アンデレと共にイエスに「人を取る漁師にしてあげよう」と声をかけられ、イエスの第一弟子となります。イエスは「あなたはペテロ(石)である。そして、私はこの岩の上に私の教会を建てよう。…私は、あなたに天国の鍵を授けよう」と述べており、天国の鍵を授けられた人物として、後に初代ローマ教皇と仰がれます。ゲッセマネの園での祈りでは、同じ三弟子であるヤコブ・ヨハネと共にイエスに同行しますが、眠りに落ちてしまい、イエスが捕まった時には、イエスが最後の晩餐で「鶏が鳴く前に三度、私を知らないと言うであろう」と予言したごとく、イエスを三度否認して、その場を逃れます。イエスの十字架後、故郷のガリラヤ湖に戻って再び漁師になりますが、復活したイエスが湖面を歩いて来るのを見て、悔い改め、イエスのもとに馳せ参じます。後に皇帝ネロによりローマでの迫害が厳しくなった時、ローマから逃れてきたペテロが霊的イエスと出会い、「ドミネ・クォ・ヴァディス?」(主よ、いずこへ?)と問いかけますが、イエスが迫害のローマを逃れようとするペテロに代わってローマに行き、再び十字架にかかろうとするのを聞いて、ローマにそのまま戻り、殉教します。イエスと同じ十字架にかかっては申し訳ないからと、逆さはりつけになりました。
(9)第九天(原動天)=神と天使達が住む。
(10)第十天(至高天)=神と天使達と聖徒達が住む。
【参考文献】
『コペルニクス革命 科学思想史序説』(トーマス・クーン、講談社学術文庫)
『科学者とキリスト教 ガリレイから現代まで』(渡辺正雄、講談社BLUE BACKS)
『近代科学を超えて』(村上陽一郎、講談社学術文庫)
『世界文学大6 ダンテ』(野上素一訳、筑摩書房)
『ダンテ神曲物語』(野上素一訳著、現代教養文庫)
『キリスト教思想史入門』(金子晴勇、日本基督教団出版局)