一般的な対処法
部下の遅刻が繰り返されるが何度指導しても改善されない。
こういう場合に一般的にはどういう対応が正解なのでしょうか。
AIやネットの法律事務所の情報などを見てみますと、おおよそ以下のような説明が多いです。
①事実確認
頻度・時間帯・理由を具体的に把握(主観評価は排除)
②原因別対応
生活習慣:就寝・通勤動線の改善を具体指示
業務負荷:過重なら調整
心理要因:対人関係・ストレスの有無を確認
規律軽視:ルール再確認+明確な基準提示
③再発防止
「何時までに出社」など行動基準を数値化
④是正措置
改善なければ段階的指導(記録必須)
※抽象的注意は効果が低い。具体化が原則。
以上の対応は確かに標準的な対応方法でしょう。
しかし、こういった対応は部下と上司との間で適切な対話が成立していなければ意味をなしません。
実情を把握できている?
事実確認も、遅刻の原因も、遅刻社員が自分の実情を正しく理解できていて、それを正直かつ具体的に説明できた場合に、上司はそれを正しい事実として理解することが可能となります。
仮にその説明されたことが事実だったとして、その事実を元に再発防止措置を伝え、遅刻が繰り返された場合の是正措置を講じても、相互の信頼関係がなければ効果が生まれにくいでしょう。
対話に遠慮やごまかしがまじれば、それだけ現実的な効果が失われ、真実から遠ざかります。
そもそも遅刻社員本人が自分の心理状況を冷静に解明できているケースは少ないです。
では、これらのやりとりは実際のところ、どの程度「うまく」いっているのでしょうか。
多くの上司はちゃんとやってるつもりだが
もし対話が「うまくいっている」のであれば、遅刻の原因となる心理的背景がある程度明確になっていると思うのです。
で?どうでしょう。
遅刻の原因が生活習慣にあるのなら生活習慣を改善できない心理的事情が、
業務負荷を軽減できないのであれば軽減できない心理的事情が、
対人関係ストレスが原因であればその心理的事情が、
規律軽視であれば軽視してしまう心理的事情が、
ある程度解明されているはずです。
しかし、ご相談案件の多くでは(というかほぼ全部で)、こういった心理的事情が不明瞭なまま、「ちゃんとやれ」という指導が繰り返され、遅刻社員はストレスを蓄積し、上司はその効果がないことに悩んでいることが多いです。
この「ちゃんとやれ」をひたすら繰り返すことにはリスクがあります。
正しいことを繰り返し言うことにどんな意味が?
多くの上司や管理職の皆さんが、
「あいつはやる気がないから、もっときつく言ってやらないといけない。」
のようなことをおっしゃいます。
本人の意思だけで遅刻を予防できないから遅刻が繰り返されるのですが、こういう部下に対して、
「正しいことを強く繰り返し言えばそのとおりになる。」
と考えている人は多いです。
そして、これは危険な思い込みです。
こう言うと、「そんなバカな」という驚きの反応をする上司の方々が多いですが、ちょっと考えたらわかります。
あなたが下痢や頭痛に悩んでいるとき、他人から「下痢をやめろ」「頭痛を治せ」と言われたら、下痢や頭痛が治りますか?
「強い言葉」に合理的な効果がないのに、それでもなお強く言う。
それは、「圧力をかけるとやる気がでる。」と思うクセがあるからです。
「いや、自分は上司の言葉でやる気が出たことがあるんだ。」
はい。あなたはそういうタイプだったのでしょう。様々な条件下でたまたまそのときは、そうなったのです。
あなたのやる気を引き出した上司とあなたは別人ですし、あなたと当該遅刻社員も別のタイプかもしれませんし、心理状況や周囲の環境や前後関係も完全に一致するとは考えにくいです。
要するに、人の心は複雑で繊細であり、性格のタイプも状況も人それぞれなので、たまたま上司になった人の体験談を当てはめてぴったり一致する確率はほぼゼロと思っておく方がよいです。
業務上の合理性がない指導によって無用なストレスを生むのであれば、パワハラだと言われても仕方がありません。
本当に恐れるべきは労働法訴訟よりも命の危険
その「強い言葉」によって社員が精神的に追い込まれ、万が一命が失われたらどうなるのか。
それは「パワハラを原因とする自殺」という見方が可能になります。
上司や管理職の皆さんは、それほどのリスクを想定して対応されているでしょうか。
ネットを見ていると、「会社が不当解雇の責任を問われないようにする」という点に重点が置かれている解説情報が多いのですが、これは労働法に詳しい社労士さんか弁護士さんの発想でしょうか。
私が思うに、不当解雇と自殺とでは問題の深刻さがケタ違いだと思うのですが、どうしても不当解雇の優先順位の方が上回るのは、そちらの方が法務業の方々の仕事につながるからではないでしょうか。
社員の自殺ほど恐ろしいものはありません。
もちろん、人の命は大事です。
それは当たり前のことのはずですが、現実には人命を「あとまわし」にしている人や会社が多いですね。
まあそれはよいとしても(良くないけれど)、自殺について遺族が会社の責任を疑えば、訴訟としても容易に解決できない事案になります。たとえ会社に責任が無くてもです。
要するに私が皆様にご理解いただきたいのは、遅刻を繰り返す社員に対応するときは、その社員との信頼関係の構築と適切な対話が重要だということです。
上司が思うほどには対話は成立していない
上司に対する信頼が無ければ、部下は本音を話さないし、冷静に考えることもできないし、ともに実情を把握することもできません。
ところが。
こう言っては何ですが、上司や管理職の皆さんのほとんど、私の直感では90%以上の皆さんが、ご本人が思う以上に対話が不適切です。
「ちゃんと話しました。」
と皆さんは言うけれど、私が遅刻社員と話をしてみると、上司を信頼していないとか、ちゃんと話をさせてもらえてないとか、怖くて本音が言えないとか、一方的に押し付けられたとか、そういった不適切な対話の実情が見えてきます。
これは上司の皆さんに非があるということではなく、社内での相互理解は容易ではないということをご認識いただきたいのです。
遅刻を繰り返してしまう人には多くの場合、複雑な心理的事情があります。
それを社内で解明して適切な再発防止措置を取ることは難しいです。
「強く繰り返し指導すればいいのだ。」
という思い込みを捨てて、より合理的な措置を試行錯誤を通じて見つけ出していただきたいと思います。
心理的に追い詰めるよりも、原因となる心理的メカニズムを穏やかな対話を通じて解明する。
これが合理的な対処法ですから、お互いが穏やかな気分で、そしてまずは上司が聞き役になって心の対話をしてみてください。
遅刻の回数が徐々に多くなってきた場合は、心理ストレスか健康問題が影響している可能性が高めだと思います。
睡眠が浅い
何らかの理由で職場に行きたくない
出勤直前で家庭での揉め事が起きている
実は出勤途中でトイレにこもっている
など、いろいろな可能性があります。
もし心理的ストレスが高まっている場合は、医師の診断を早めに受けさせることをお勧めします。
甘すぎると思った方へ
なお、この記事をお読みになって「考え方が甘すぎる。これでは社内秩序を維持できない。」と思われた方がおられると思います。
それは「状況による」とお考えください。「厳しい」も「甘い」も、それぞれが全ての組織で常に有効だとは思わない方がよいです。
「甘くない方法」で実施して、それで効果がでたのなら、いま「悩みはない」でしょう。
でも悩んでしまうのはなぜか。
そのやり方が実情に合っていないからではないですか。
私は働く皆さんに対し、「皆さんの仕事への向き合い方が甘くないですか。」と問いかけることがあります。
私の考え方を「甘い」と感じるような管理職の皆さんに対してもそうです。
私は穏やかな対話を推奨しつつ、仕事に対しては公私混同をしないでくださいとお願いします。
私が穏やかな対話を推奨するのは、仕事が複雑化し対話力の重要性が高まってゆく現状だからです。
業務上の必要性があること、意味があることを行いましょう。
そして、現状に合わせて自らの考え方を修正することも「仕事」ですよね。
私は心理と法務の両面でアドバイスをしていますが、人材と組織が総合的かつ長期的に有効に機能する考え方を重視しています。
そして昭和世代の方々に、よく注意を促します。
自分にとって都合のよい場面では部下に「そんなことではダメだ」と言い、都合にとって悪い場面では、「そんなに気にしなくていいんだよ」と言う人がいます。
というか、とても多いです。
それは組織の私物化という結果になっていませんか。
そこを若い世代の人たちに見透かされていませんか。