― シリーズ「心が限界を超えたとき」―
DV相談員さんの「それは、DVです」という言葉で、
張りつめていた糸がぷつりと切れた。
あの瞬間、私はようやく「自分の感じていた苦しみ」が
「間違いではなかった」と知った。
でも、現実はすぐには変わらなかった。
帰る家は、相変わらず恐怖の場所だった。
何か言葉を発すれば怒鳴られ、
黙っていれば無視された。
「存在していること」そのものが、間違いのように感じていた。
食器を割られる音。
テーブルを叩く音。
そのたびに、体が勝手に震えた。
いつの間にか、笑うことも泣くこともできなくなっていた。
そんなある夜、彼が眠ったあと、
私は静かにキッチンの椅子に座った。
手のひらを見つめながら、
「生きるって、こんなに体力使うんや」
そうつぶやいた。
誰かと一緒にいるということが、
こんなにも心を削るものだとは知らなかった。
このままでは、きっと心が壊れてしまう。
薬づけになって、ただ呼吸だけをして生きる日々になる。
もう、ここにいてはいけない。
その夜、決めた。
「離れよう」
翌朝、DV相談員さんに電話をした。
震える声で、「もう無理です」とだけ伝えた。
相談員さんは静かに言った。
「大丈夫。順を追ってやっていきましょう」
それからの日々は、まるで戦いだった。
調停委員さんさんとの面談、調停の呼び出し。
心は限界だったけれど、
それでも「生きるため」に動いた。
そして
ようやく「調停離婚」が成立した日。
書類に押した印鑑を見つめながら、
涙がこぼれた。
悲しい涙ではなく、
「ここから、やり直せる」という、
小さな希望の涙だった。