第1話:息をするのもつらい日々

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コラム
ある女性がいた。
名前は『佳奈』

特別な人ではない。
どこにでもいる、ひとりの妻であり、母であり、
ただ「家族を大切にしたい」と思っていただけの人だった。

朝。
「挨拶は、俺が仕事行ってる間に死んどけ」
それが、彼の「おはよう」だった。

夜。
玄関のドアが開く音が、恐怖の合図になる。
「まだ生きてたんか」
笑いながら言うその声に、心が凍る。

食卓に出したご飯を、彼は一瞥した。
「こんなまずいもん、食えるか」
おかずも、ご飯も、味噌汁も、ひとまとめに床へ叩きつけられた。
器が割れる音が、胸の奥で響いた。

『何がいけなかったんやろ。』
『私、どこで間違えたんやろ。』

母が亡くなったあと、佳奈を守る人はもう誰もいなかった。
ただ、生きているだけで、罪を問われるような毎日。
息をしているのに、息ができない。
一睡もできない。
普通のことが、こんなに体力を
使うんだって始めて知った。

それでも、どこかで声がした。
「佳奈、生きなさい」
その言葉が、暗闇の中で唯一の光だった。

けれど、外での彼は、まるで別人だった。
愛想よく笑い、誰にでも感じよく接する。
その姿を見た友人たちは、
「そんなこと言う? あんなに感じのいい旦那さんが?」
と信じてくれなかった。

言葉を失い、誰にも助けを求められなかった。
けれど、ただひとり
DV相談員さんだけは、私の話を最後まで聞いてくれた。

「それは、DVです」
静かに、でも確かにそう言ってくれた。
その一言で、
「壊れていたのは、私じゃなかった」
と気づけた。


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