ジョン・ローズ(John Rawls)は、現代政治哲学における重要な人物であり、彼の理論は公正と倫理に関する議論を根本から変えました。
特に彼の著作『正義論』(A Theory of Justice)は、政治哲学における幸福論を考える上で非常に重要なテキストです。彼の理論を幸福論の視点から見ると、いくつかの重要なポイントが浮かび上がります。
1. 原初的立場(Original Position)
ローズは「原初的立場」という思考実験を提唱しました。これは、すべての個人が社会契約を結ぶ前に、自身の社会的地位や個人的属性(性別、人種、資産など)についての知識を持たない状態(無知のヴェール)の下で、社会の基本的な原則について合意するという状況です。
この立場から見ると、幸福は個人の特定の状況や条件に依存することなく、平等かつ公平に追求されるべきものとされます。
2. 公正としての正義(Justice as Fairness)
ローズの正義理論は「公正としての正義」と呼ばれ、社会制度が個々人の幸福追求を公平にサポートすることに重点を置いています。
彼は経済的および社会的不平等が正当化されるのは、それが最も不利なメンバーの利益になる場合のみとしています。これは「不利益の最大化原則」とも呼ばれ、社会全体の幸福の最大化とは異なるアプローチを提供します。
3. 自由の優先性(Priority of Liberty)
ローズは個人の自由を非常に高く評価し、自由が幸福の重要な条件であると考えています。
彼の理論では、各人が持つべき基本的自由が保証され、これらの自由が他の社会的利益や要求によって侵害されることなく保持されるべきだとされています。この自由の保障が、個人が自身の幸福を追求する上での基盤となります。
4. 差異原理(Difference Principle)
ローズの「差異原理」によると、社会的、経済的不平等は、それが最も不利な社会メンバーの待遇を改善することに寄与する限りにおいてのみ許容されるべきです。
これは、全体としての幸福よりも個々の幸福の機会を重視することを意味し、全員が公平なチャンスを持って自己実現を目指すことができる社会を目指します。
ジョン・ローズの理論から見る幸福論は、個人の自由と平等な機会が幸福の追求に必須であるという観点を強調します。
また、社会全体の福祉を高めるためには、最も不利な立場にある人々の条件を改善することが重要であるとしています。