【連載小説】第50話 揺れる足場

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その頃——

美月の頭から、
一人の男が離れなくなっていた。

高坂。

自由で、
どこにも縛られない男。

今まで出会ったことのない種類の人間だった。

気づけば、
その存在が日常に入り込んでいた。

そしてその恋が20代という一番輝くはずの時間が
無意味に過ぎてしまうとは
その時には気づきもしなかった。

ある日の午後。

麗子ママから電話が入った。

『今日、時間ある?』

久しぶりに聞く声は、
どこか弱々しかった。

指定された事務所は、
店の裏手にある小さな空間だった。

華やかなフロアとは違い、
現実だけが置かれている場所。

『来月、新しい店を出すの』

ママは、ゆっくりと話し始めた。

カラオケ店。

小さな箱。

そして——

『美月ちゃんに任せたいの』

その一言は、
思っていたより重かった。

期待と、不安。

自分にできるのか。

その迷いを、
すぐには飲み込めなかった。

それでも——

数日後。

美月は、その話を受けた。

理由ははっきりしていた。

風花での競争。

指名争い。

笑顔の裏にある、張り詰めた空気。

それに、少し疲れていた。

そしてもう一つ。

心のどこかが、
別の場所を求めていた。

——高坂のことを考える時間が、増えていた。

新しい店の準備は、
あっという間に進んだ。

店の名前は『ペペルモコ』

軽やかな響きとは裏腹に、
内装はどこか物足りなかった。

正木店長は穏やかで優しい。

けれど——

その優しさは、
どこか頼りなさにも見えた。

店は小さく、
客層も若い。

華やかだった風花とは、
まるで別の世界だった。

「これでいいの?」

何度も、自分に問いかけた。

オープン当初は賑わった。

けれど、続かない。

リピーターがつかない。

理由が、わからない。

焦りだけが、積み重なっていく。

笑顔も、ぎこちなくなっていく。

そしてふとした瞬間——

高坂の顔が浮かぶ。

「今、何してるんだろう」

そんなことを考えてしまう自分に、
苛立った。

仕事に集中しなければいけないのに。

それでも心は、
どこか別の場所に引っ張られていた。

この店も。

この恋も。

どこへ向かっているのか、
まだ分からなかった。

ただひとつだけ——

足元が、少しずつ揺れていることだけは、
はっきり感じていた。
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