【連載小説】第46話 戻る場所

記事
小説

その夜——

店長が、わざわざ部屋まで来てくれた。

『ただいま。店長、一緒です』

ドアの向こうで、
美涙は立ち尽くしていた。

『……すみませんでした』

言葉より先に、
深く頭を下げる。

その姿は、
今まで見たことがないほど小さかった。

『顔、上げろ』

店長の声は、いつもより低かった。

『いなくなった時は驚いたぞ』

『……はい』

『何があった』

逃げ場のない問い。

美涙は、静かに話し始めた。

結城のこと。

新宿の店のこと。

そして——

自分の甘さのこと。

すべて話し終えたとき、
部屋にはしばらく沈黙が落ちた。

『……そうか』

店長は、ゆっくり頷いた。

『バンスは払ったんだな』

『はい……五十万』

『そうか。それでいい』

意外な言葉だった。

『金は戻らん』

『でもな——』

『帰ってこれたことの方が大事だ』

その一言で、
張り詰めていたものが崩れた。

『……はい』

涙がこぼれる。

『あのままだったら、もっと面倒なことになってた』

『だから今回は——交通事故だと思え』

その言葉は、乱暴で、
でも優しかった。

『明日からまた来い』

『えっ……いいんですか?』

『何言ってんだ』

店長は、少しだけ笑った。

『うちの看板だろ』

その一言で、
すべてが救われた気がした。

『……ありがとうございます』

涙が、止まらなかった。

——そして翌日。

『美涙さん、お電話です』

何気ない一言。

けれど——

『……もしもし』

『やっぱり戻ったか』

その声を聞いた瞬間、
血の気が引いた。

『……俺だよ』

結城。

『なんで戻った?』

低い声。

昨日までの優しさは、
どこにもなかった。

『今、仕事中なの』

声が震える。

『明日、電話する』

それだけ言って、切った。

呼吸がうまくできなかった。

『店長……』

その名前を呼ぶだけで、
少しだけ安心した。

『あいつか』

『大丈夫だ。俺に任せろ』

その言葉は、短くて、強かった。

——その後。

何を話したのかは、分からない。

けれど——

結城からの連絡は、
二度となかった。
サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す ココナラコンテンツマーケット ノウハウ記事・テンプレート・デザイン素材はこちら